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二章
re.《378》願い
しおりを挟む「屋敷に戻る日程を予め知らせておくから、その時には必ず話をするようにしよう」
それなのに、それだけでは無い気配が身にまとわりつく。
甘い後味のある声だ。
気になって危なくて、知らないふりをしたいのに期待する気持ちに気が付かされる。
特別扱い。
そんな単語が浮かぶような視線や対応をされていると思うのは、思い上がりにも程がある。
「もしも君が嫌でなければ·····良い機会だと思ってるんだ」
───それすらを知らせようとしているみたいな、狡い感じだ。
ハッとした時、滑り込んできた指に、今度こそきゅっと手を握られる。
もう隠す必要も無いみたいに、魅惑的な視線がこちらを侵す。
訳が分からないまま視線を逸らすが、沈黙に耐えきれずまた彼の方を見る。
もう片方の手がこちらの顔へ伸びてくる。
震える瞳の端で大きな手が頬を撫でた。
「ニャ」
思わず漏れた幼鳴に息を殺したら、彼の手は直ぐに離れていった。
初めからおかしいんだ。
彼の一挙一動に敏感になって、身体や視線が放っておけない。
ふっと微笑むのは、薔薇が咲き乱れるような優美さだった。
「君と親しくなりたい」
そのための機会になると思ったと、彼は言ったのだ。
「君と俺は、夫婦なのだから」
ただの事実に、顔はおかしいくらい熱くなった。
ここで言う夫婦関係は、ビジネスパートナー。
公務を円滑に進めるため、友好な関係を築かないかと提案されているだけだ。
どうかなと聞かれたら、拒絶なんてできない。
ミチルは頷いて、モジモジしながらそっと手を引っ込めた。
彼はもう追っては来なかった。
部屋の点検は終わったらしい。
自室に戻るか、ここを好きに使ってもいいと言う男はとても不思議だ。まるで、自分の寝室を2人のものみたいに言うから。
(でもそんなことしたら)
彼とひとつのベットで寝ることになる。
そんなことしたら、どうなってしまうんだろ。
だって今、声を聞くだけで、否姿を見るだけで───どこをとっても万能な彼に、欲情しているみたいだ。
結局その後は自室に戻ることになった。
ルビーに会えるのは明日、彼と皇子達との面会の後だという。色々と不安だが、これでやっと彼らは対面し、そしてルビーを皇室に受け入れる段階へ進める。
もう彼を1人にはしない。
飢えと孤独に怯えさせることはない。
思いやりがあって、愛嬌のある優しい子。
人懐こいのに、迷惑だとわかると一線を引いて、物分りの良いふりをする、少し寂しい子だ。
愛情をそそいで、そしていつかきっと、彼の残酷で悲しい願いを幸せなものに変えられるはずだ。
その日は夜空へ願いながら眠った。
そうなるだろうと信じて疑わなかったのだ。
「可愛い姿になったと思わない」
森も寝静まる深夜。
「コレなら、もっと愛してくれるかな·····?」
1人の部屋で、少年はつぶやいた。
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