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二章
re.《373》声
しおりを挟むレイモンドに背を向けて寝転がったミチルは、その二秒後、体を強ばらせた。
身体の上に落ちた濃い影。
血管の浮き出た手が顔横のベットに置かれて、ぎしりと静かにしなった。
「練習相手になりましょうか」
妖しい声には、振り返らないまま首を振った。
「ざんねんです」と、相手が離れてゆく。
心臓に悪すぎる。彼は時折、自分を安心させたいのか、驚かせたいのか分からない。
しかし不思議と、恐怖を感じたことは無いのだ。
「"挨拶のキス"を習慣化してみてはいかがでしょうか」
(キスを習慣化?)
ミチルは数秒かけてそれを理解した。
そして、さっきの甘く痺れる空気を思い出して、慌てて首を振る。
「言葉を紡ぐことはとても難しいかも知れませんが、口付けは1秒でも良いのです」
ごく簡単そうに言うから、まるで変な事じゃないみたいに聞こえる。
嫌かと聞かれた。
よく分からない。
けれどきっと、嫌じゃない。
ムズムズして変な気持ちになる。逃げたくなるのに───もっとして欲しくなる。
よほど、相手の方が魔法使いではないか。
結局、そのあとは教育係の声を聴きながら眠った。
悔しいけどイイ声だ。
それに彼が話すことは、穏やかで、そして眠りを邪魔しない。
頬を撫でられて、ウトウトしながら、やがてまぶたを閉じる。
記憶の最後は、なめらかなロウソクの灯りと、その男の朗らかな抑揚だ。
いつの間にか眠っていた。
暖かな海の底を浮かぶような夢だった。
そして、長くて短い眠りだった。
「·····───────!」
「·····──·····────!!」
遠くから近づいてくる声に、ふと意識を呼び戻される。
こっちへ来る。荒々しい足音だ。
(なに?)
怖い。
隠れる場所を探すより先に、果たして扉はけたたましく開かれた。
「··········え?」
褐色の肌に、それより黒い茶髪の男。
久しぶりに見ると、獰猛さに磨きのかかってとてもでは無いが近寄り難い美形だ。
こちらを捉えて、黄金を溶かしたような瞳はカッと見開かれた。
「おい、お前!」
「へっ、」
低い声が唸って、ズカズカこちらへ向かってくるではないか。
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