悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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二章

re.《354》

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「致しかねます」


いくら叩いたって、鋼のような胸もとも、腕も、ビクともしない。
ジェロンはこちらの意思など関係なしに来た道を引き返すでは無いか。


「ね、降ろして·····」

「情報が入り次第ご報告致しますので、自室でお待ちください」


そんなの、待っていられない。

緊急で帰還したなんて、何かあったのだ。
もしかしたら今度こそ、大怪我や、あるいは酷い事態になっているかもしれない。
それなのに、このカタブツ世話係は、ダリアの命令通りまたこの自分を監禁するつもりだ。

いいや、それだって自分のせいだ。
信用もなければ役にも立たない。そんな、自分のせいだ。

(だから1人じゃ、レイモンドも、助けられない)

押し寄せる不安と情けなさに視界がぼやける。
ついに目の前の腕の形も見えなくなって、俯いた時。

勝手に部屋に向かっていた脚が、ピタリと立ち止まった。


「殿───」

「そいつ」


ジェロンの言葉を遮って、新たな声が告げる。


「寄越して。俺が連れてくから」


短調で偉そうな話し方だ。
そして「そいつ」が自分のことだと知る。身は、ジェロンが差し出すより先に、ひったくるようにして別の人物に抱き上げられた。


「!」


抱っこだったのが姫抱きに変わる。
少し硬いシャツは第二ボタンまで空いていて、甘い香りと相反するように胸板は彫刻みたいだ。

泣いているのを気が付かれないように溜まった涙を散らすが、


「また泣いてンの、チル」


こちらを抱えて歩く本人はからかうように笑った。

泣き虫だと言いたいんだろう。
長い脚は1歩が大きくて、さっき走ったのが嘘みたいに、すぐ部屋に到着する。
後ろ手に鍵を閉めて、そのままベットへ降ろされた。


「んで、なんで泣いてんの?」


蜘蛛でもいたのかとからかいながら腰掛けたのは、久方ぶりに会うハインツェだ。
帰ってきたのは彼だったらしい。
そして、そんな軽口を叩くあたり元気そうだが、見た目だけじゃ分からない。


「俺が帰ってきたから、また虐められちゃう~って泣いてたのかなぁ。ん?」

「なんともないの?」










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