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re.《317》瞳
しおりを挟む吸い込まれそうな深赤が、こちらを射抜いていたからだ。
両目にはめられたルビーの瞳だ。
ルビーの語源はルベウス。
赤い宝石はその輝きが真紅に近いほど崇高なものとされ、天への信仰が厚い聖地では、赤い宝石を「ラトラナジュ(宝石の王者)」 と称した。
それは、深紅の瞳が悪魔界の王───即ち世界の支配者アビス・サタンを意味したからである。
(ルビー·····ラトラナジュ·····)
それは神の色。
または神に愛された、王の色。
青年の輝きは、それよりも白くて、みなものように輝き透き通る。
「ルベライト」
そっと呟いてみる。
腰を抱きしめていた手が、両手を包み込む。戸惑うこちらに、彼は花が咲くように微笑んだ。
「愛称はルビーにしよう」
(ルビー)
綺麗で可愛らしい響きが似合う。
自分の魅力を知っているみたいでちょっと心配だが、否定できない。
「ねえ、もっと名前を呼んで」
彼は秘密事を囁くように言った。
いつの間に、こんなに近くで長く話すことに抵抗が無くなったんだろう。
当たり前のように身体を抱きしめている腕。鼻先が触れそうな程だ。
それこそが、彼が自分にとって唯一無二の存在であることを知らしめているみたいで、喜びが込み上げる。
「ルビー」
「えへへ·····♪」
またちょっと引き寄せられて、硬い身体と密着する。
気恥ずかしいけど、嫌じゃない。
一人きりの時、どんなに家族を願ったか分からない。
我が子ができるなんて夢のまた夢。
こんなふうに抱きしめる日が来るなんて、想像もできなかった。
いや、どちらかと言うと抱きしめられているのはこっちだが、そんな些細なことはどうでもいい。
彼はれっきとした自分の子だ。
ここには他になんの思惑もない、愛情だけで確立する関係がある。
「ね·····?もっと、いっぱい呼んでよ」
「·····んっ·····」
耳元に押し付けられて、思わず声が震える。
そしたら、焦れた声が「お願い」と催促するから、ミチルはむず痒さを耐えて口を開く。
「ルビー··········───、っ·····」
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