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re.《310》してくれるの?
しおりを挟む長い指が自身の唇をなぞりながら、視線はこちらの全身をなぞった。
それに当てられたように、体の節々がひりつく。
薄い唇がひっそり微笑むのは、知らない世界を除く気分だった。
「言ったら、してくれるの?」
「·····へ·····」
「あなたの言い方、ズルいなぁ。まるで今の状況だったら、何でもしてくれるみたい」
甘さを濃縮したような声音。
見つめてくる目に影が落ちて、薄い薔薇色を咲かせる。
果たして彼は、さっきとはまるきり違うふうに口角を持ち上げた。
「なんてね♪」
長いまつ毛がウインクしたら、星が散ったように見えた。
「安売りしちゃダメだよ」
ミチルはぱちくりと瞬きを繰り返した。
なんだったんだ、さっきの雰囲気は?
「毎日一緒に眠ってよ。この前みたいに」
(それだけ?)
彼が自分に良くする目的がわかると思ったのに、ますます分からなくなるばかりだ。
「あぁ、そうだ」と彼が続ける。
「10日後に呪いを解いたあとは、すぐ寝ちゃうかもしれないけど·····眠たくなるだけだから、心配しないでね」
沢山寝たら回復するんだ。そう言う気さくな話し方に頷きながら、ミチルはやはり、どんな顔をしたらいいかわからなくなった。
「ほかの人にはナイショだよ」
純粋な笑顔を、初めて出会った時より、直視しにくい。
胸の中をざわめく謎の罪悪感は、気のせいじゃない。
けど、今は彼を利用するしかない。
元はと言えば彼が呪いを発動させたのが問題だ。
「食べる?」
手に取ったブリオッシュは生ぬるそうだ。
口をつけたクリームは味がしなかった。
それから数日間は穏やかに日が過ぎていった。
報告によると、ハインツェやアヴェル、ヨハネスらは忙しそうだが、大地震を食い込めることに順調らしい。被害は最低限にすんでいるという。
こちらはと言うと、もっぱら青年の相手だ。
入宮に際しての話をした時も、こちらが説明するより先に話題を出してきたのがきっかけだった。
「これが済んだら僕のことを公表するんでしょ?」
問いかけられた時は心臓が止まるかと思った。
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