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二章
re.《263》侵入者
しおりを挟む「shh───」
すいと出された人差し指が、こちらの鼻先で天井を指す。
逆らったら殺されるかもしれない。
叫びかけたのを堪えて、口を噤む。
ありえない心地で、それよりもありえない甘い顔立ちの青年を見つめ返していた。
───どうやって侵入した?
ここは王宮。
皇族以外は、入宮を許可された者しか敷地に入ることの出来ないのが絶対だ。
「それにしても、あんな言い方無いだろ」
果たして相手は、投げやりに口を開いた。
「途中で、何回飛び出してぶん殴ってやろうかと思ったことか!ねえ───」
「こ、来ないで·····!」
とうとう悲鳴をあげる。
相手が確実にこちらへ近寄ってくるからだ。
拒絶してからハッとする。
が、その表情は相手も同じだった。
長いまつ毛の下で揺れた、湖みたいなローゼ。
状況を知らぬ者だったら、うっとりするような艶やかさだ。
次の瞬間、彼はその場にしゃがみこんだ。
思わずギョッとしてベットから前のめりになる。
具合でも悪くなったのかと思ったが、違うみたいだった。
「ここから出たくなさそうだね」
「·····?」
侵入者だ。
そんな身分を持ちながら、突然、他人のプライベートに口を突っ込んできて、友達の家でくつろぐみたいに、床に腰を下ろした。
身にまとっているのはチャラさのある黒いスーツ。
シャツのボタンは二つ空いていて、両腕の袖は緩くまくられている。
昼間に見た時とは、少し違う印象だ。
思わず相手を分析しながら、ミチルはそっと引き下がった。
「じゃあ·····遊びに行く?」
「·····え·····?」
「あ!帰りは、ちゃんとここに送るよ。絶対約束する」
相手の言葉の意味を理解するのにやや時間を要する。
つまり、ここから連れ出そうと思ったけど、それはこっちが望んでいないみたいだから、ちょっと出かけないかと、そういうことか?
(いや·····どういうこと?)
彼がそうしようとする目的はなんだ?
そもそも、こっちに提案なんかしなくても、そうしたければ既にこの身は連れ去られているはずだ。
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