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二章
re.《252》予防線
しおりを挟む「体調回復だけでなく、フェロモンの安定にも良いお薬です。苦味も和らぎましたから───」
レイモンドとは違う、冷たくて後味がない声が左から右へ流れてゆく。
今のミチルはそれどころでは無かった。
(気持ちを、言葉にする)
彼にいつも思ってたこと。
伝えたかったこと。
感謝と───。
(だめ)
ありがとうなんて言っても、仕事だからと突き返されてしまう。
脳内にレイモンドがいたら「そういう所がいけない」とツッコミをくらいそうだが、感謝を受け取られないなんて悲しいし、相手にとっても迷惑なだけだ。
(でも·····)
"出来ますよ"
その一言が、突っかえていた喉をひと押しした。
「ジェロン·····」
「·····何ですか?なんと言おうと、このお薬は召し上がっていただきますが」
名前を小さく呼んだだけで、説得は中断される。
別に薬が飲みたくなくて呼び止めたわけじゃないのに、しっかり予防線まで貼られた。
こっちは気持ちを伝えるのに必死で、あっちは仕事を済ませるのに必死だ。
いや、相手のことは気にしちゃダメだ。大切なのは自分の気持ちだ。
そうじゃないと変われないって気がついたのだ。
「───如何なさいましたか」
黙ったままでいたら、さっきまで薬を飲ませようとして聞かなかった相手の声質が少し変わる。
ジェロンは目の前まで来ると、易易とその場に跪いた。
目線は逆転した。
「·····?」
見つめてくるブルーはハッとするほど澄んでいる。
有能な身体にはスーツが似合っている。それなのに、跪いて言葉を待つ姿が、何だか、主人の指示を待つ北の狼を思わせる。
「何処か優れないのですか」
言葉を選びあぐ寝ていたら、相手の表情が固くなった。
冷たい美形が真剣な顔をすると、少し怖い。
さらに言葉をつむげなくなってレイモンドの方を見ると、なんと彼は、ほかの者に呼ばれて扉の方へいるではないか。
無責任にも程がある。
「直ぐに主治医をお呼びします」
「ち、ちがう」
大事になったら大変だ。
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