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re.《239》静かな恐喝
しおりを挟む居なかったのはダリアの方じゃないか。
いつも1人取り残されるから、今回もずっとかえってこないと思ったのだ。
彼に放置され続けた自分がそう勘違いするのは、なにかおかしなことだろうか?
「ミチル」
長い脚は少しもかがまれないまま、顎に添えられた親指の腹が顔を見あげさせる。
上から見下ろされると怖い。
頭を強く抑え込まれて、ひたすら熱を打ち込まれた記憶が蘇るのだ。
思わず、強く振り払うように首を振った。
「優しく聞いているうちに答えた方が良い」
果たして返ってきたのは、とても静かで傲慢な恐喝だった。
そっと聞こえたのは冷たいため息。
こんなモヤモヤした理不尽感には納得できない。
ちょっとの苛立ちは、しかし彼に睨まれていると次第に消え、恐怖と臆病だけが残る。
前も立ち入ってはいけない所に潜り込んで、ヨハネスに怒られたことがある。
どんな理由があれ、自分が独断で外に飛び出した事実は変わらない。
無責任なこちらが悪かったんだろう。
でも、こんな責められ方をされても、当たり前なのか?
彼の言い分が正しくても、なんだかとても惨めな気分だ。
こんなのまるで、リードに繋がれた猫や犬と一緒じゃないか。
「どこを見てるんだ?」
何か言い返そうと思って拳を握りしめる。
ダリアの手が肩に置かれる。
こっちが口を開くより先に、硬い声が告げた。
「言うことが聞けないなら、外へ出られなくすることも出来るんだが」
「·····───っ」
全身が重たくなるみたいだ。
最近、何かが少し変わっていたと思っていた。
全部勘違いだったのかもしれない。
短い沈黙が流れた。
一方、その短い沈黙の間、ダリアは失言を知った。
見下ろした細い肩は確かに震えた。
自分の発言を後悔するのはいつだってミチルに関することだ。前までは言動を悔いることなど1度だってなかった。
全て自分の考えが合理的で、決定が"正"になったからだ。
それは実際の事だった。
しかし今、ミチルを怖がらせた瞬間に、この言動は全て間違いだと思い知らされる。
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