503 / 793
二章
re.《221》好きじゃない
しおりを挟む彼の事は別に好きじゃない。どっちかと言うと苦手だ。
でも、嫌いじゃない。
居なくなられたら、多少は、きっと寂しい。
それに、自分のせいで誰かが不幸になるなんて絶対に嫌だ。最悪だ。
「き、す·····して·····」
こちらを見下ろしている男を見ないようにして呟く。
それで解決するなら、じっとしてるだけでいい。
「·····宜しいのですか?私のような無礼者が、ミチル様に·····」
いきなりしおらしくなって、何なんだ。
いつもの手練手管の口を、ほんの少しだけ手の甲に宿せばいいじゃないか。
このままじゃ彼は本当にいなくなってしまうかもしれない。
焦りが勝る。
こんな時に限って、達者な使用人が無口なせいだ。
「·····───早く、して·····っ」
声は情けなく震えた。
「··········」
チクタクと鳴る針の音。
目の前で、彼はするりと手袋を外した。
そしてそっと、こちらの手を執った。
「·····ッ」
高い鼻が俯いて、そこに吐息がかかる。
一筆に書いたような眉はそれだけで美術品みたいだ。
唇は触れてから離れていかない。
これだけじゃ、先程のことを取り消すには足りないのか?
分からないまま、じっと我慢するしかなくなる。
少し湿った唇は手の甲から指先、そして手首へ順番に触れてゆく。
反対の手には指を絡められる。びっくりしても、さっき拒んでしまった結果が怖くて、振り払うことは出来ない。
チュ、チュ、と、いつの間にか、弾けるようなリップ音が手のひらなんかに落とされる。
振り払えないけど、どうしたら良いかも分からず、逃げるように手を胸元へと持ってゆく。
そうしたら彼も着いてきて、いつの間にか高い鼻先は首筋の辺りで立ち止まった。
(なに?)
なんだか、変な空気だ。
さっきまでは慌てていて全然意識していなかったが、そういえばここはベットの上だし、彼に組み敷かれ、両手を緩く捕まれて、囚われているような気分になる。
心臓は緊張とよく分からない気持ちで早足だった。
23
お気に入りに追加
2,268
あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)


【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる