476 / 751
二章
re.《197》謝罪
しおりを挟む「·····」
嫌だと言ったら、もっと困った顔をするだろう。
仕方なく頷く。
子作りの時はこちらのことを好きにしていたんだから、今更だ。
彼はそっとこちらへよってきて、ベットのサイドテーブルに小包を置いた。
甘い匂いがする。
「体調は、どう·····?」
優しく鼓膜を揺らす声にまた頷く。
ヨハネスはホッとため息をついた。
前に話したかったことって、なんだ?
不信感を持ってじっと見つめ続けたら、いつもはほほ笑みかける唇は口角をあげない。
「うさぎちゃんを、沢山傷つけた」
椅子に腰かけた相手は少し俯く。
ごめんとつぶやく声が心もとない。
ミチルはよく分からないものを見るような目でヨハネスを眺めていた。
彼らの子を産むための手段として辛い治療を強いられたことだろうか?
それなら、仕方がない。
だって自分はそのために嫁いだ生贄だった。
ただ、彼が甘やかすから、勝手に裏切られた気分になったことの方が余程辛かった。
けどそれは、ヨハネスは知りえないことだし、優しくしたことを怒るなんてどうかしてる。
「·····ここから出ていきたい·····?」
さっきよりも小さな声は震えているようにも聞こえた。
何を言っているのか分からなかったミチルにも理解出来た。
彼は自分が離れていくことを恐れている。
この体を抱いている時、時折見せた苦しそうな瞳が蘇る。
ミチルはそっと手を伸ばした。
滑らせるようにして頭を撫でてやる。
こうすると落ち着くことを、彼のおかげで知った。
絹糸みたいに細くて滑らかな毛だ。毛先が金粉みたいに舞うので、触れている方も楽しい。
つい繰り返して、そっと覗き込んでみる。
ヨハネスはビクともしない。
数秒後、そっとこちらを見上げたのは、初めて見る顔だった。
切なげな眼差しにギクリとする。引っ込めようとした手は手首を掴まれた。
「もっとして」
もしかしたら、とても変なことをしてしまったのだろうか。
「うさぎちゃん·····」
そう呟く声が、いつかに似ている。
彼を───誰かの名前で呼んだ時だ。
思い出しかけた何かは、鈍い頭痛が走ると、記憶のさなかへと消えていった。
4
お気に入りに追加
2,227
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる