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二章
re.《190》願い
しおりを挟むそれで隠せているつもりだと思っているのだから、本当にいじらしい。
「最初で最後の頼みだ」
命令ではない。
ミチルはやっとこちらに向き直った。
いつもは無口なくせに、こんな時に限って小さな唇が名前を呼ぶ。
「最後なの?」
「·····」
そうだと言えば、このウサギは喜ぶだろうか。
それとも別れを惜しむだろうか。
どちらにしろ、癪に障る。
「さあな」
甘いマロン色の髪が舞う。
「気が変わらないうちに早くしろ」
かがみこんでやるのは、自分でも信じられないような優しさだ。
キスをしたら、この魔法は解けてしまう。
自分がいちばん理解っているのに。
触れ合った薄い肌から温もりが伝わる。
覚えのある無重力感だ。
次にまぶたを開けた時───そこには白い闇が広がっていた。
それはある日の早朝だった。
まだ日が昇る前の暗い時間。
王宮の西側に位置する森へ、一筋の光が差す。
見張りの者すら見落としてしまうほど微かな光の柱だ。
「あれは·····?」
輝きにいち早く気がついた騎士は、銀色の瞳を限界まで見開いた。
この現象を唯一知る者だ。
「そんな·····まさか·····!!」
それが段々と威力を増してゆく。
麓はあの古城だ。
天界の扉が開いたのだ。
エバンは駆け出した。
高速魔法はマナを大量に消費するが、今は関係ない。
目的地は光に包まれている。
扉の前に先約がいた。
レイモンドだ。
「おや、随分と遅かったですね」
皮肉を言う流暢な声も、エバンには既に届かない。
光の向こうから姿を現したのは、輝く白銀の髪。
懐かしいシルエット。
懐かしいマナの気配。
「·····───!!!」
彼はしばらく光の中にいて、やがてそっと、量の瞼から凍るような深紅を咲かせた。
誇りだかき騎士団長には有るまじき事だが、この時エバンは数歩引き下がった。
お陰で、レイモンドとは隣同士で並ぶことになる。
2人は恭しく跪いた。
「おかえりなさいませ、我が主」
翌日の城内は騒がしかった。
例えばいつもは感情を殺している使用人たちが忙しなく動きながらどこかソワソワしているような、もしかしたら嬉々としても見えるような、奇妙な違和感。
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