悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

文字の大きさ
上 下
469 / 751
二章

re.《190》願い

しおりを挟む








それで隠せているつもりだと思っているのだから、本当にいじらしい。


「最初で最後の頼みだ」


命令ではない。

ミチルはやっとこちらに向き直った。
いつもは無口なくせに、こんな時に限って小さな唇が名前を呼ぶ。


「最後なの?」

「·····」


そうだと言えば、このウサギは喜ぶだろうか。
それとも別れを惜しむだろうか。
どちらにしろ、癪に障る。


「さあな」


甘いマロン色の髪が舞う。


「気が変わらないうちに早くしろ」


かがみこんでやるのは、自分でも信じられないような優しさだ。
キスをしたら、この魔法は解けてしまう。
自分がいちばん理解っているのに。

触れ合った薄い肌から温もりが伝わる。
覚えのある無重力感だ。


次にまぶたを開けた時───そこには白い闇が広がっていた。
















それはある日の早朝だった。

まだ日が昇る前の暗い時間。
王宮の西側に位置する森へ、一筋の光が差す。
見張りの者すら見落としてしまうほど微かな光の柱だ。


「あれは·····?」


輝きにいち早く気がついた騎士は、銀色の瞳を限界まで見開いた。
この現象を唯一知る者だ。


「そんな·····まさか·····!!」


それが段々と威力を増してゆく。
麓はあの古城だ。

天界の扉が開いたのだ。

エバンは駆け出した。
高速魔法はマナを大量に消費するが、今は関係ない。

目的地は光に包まれている。
扉の前に先約がいた。

レイモンドだ。


「おや、随分と遅かったですね」


皮肉を言う流暢な声も、エバンには既に届かない。

光の向こうから姿を現したのは、輝く白銀の髪。
懐かしいシルエット。
懐かしいマナの気配。


「·····───!!!」


彼はしばらく光の中にいて、やがてそっと、量の瞼から凍るような深紅を咲かせた。

誇りだかき騎士団長には有るまじき事だが、この時エバンは数歩引き下がった。
お陰で、レイモンドとは隣同士で並ぶことになる。

2人は恭しく跪いた。


「おかえりなさいませ、我が主」


















翌日の城内は騒がしかった。

例えばいつもは感情を殺している使用人たちが忙しなく動きながらどこかソワソワしているような、もしかしたら嬉々としても見えるような、奇妙な違和感。








しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...