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re.《161》口付け
しおりを挟む怖い。
やり場の無い手は、こちらの腿を固定する硬い腕にしがみつく。
「じぇろん·····」
瞳にはじんわりと涙が浮かんだ。
一方で──スポイトを持つ無機質な手は、ピタリと立ち止まった。
「そのように名前を呼ぶのはおやめ下さい」
「·····へ·····」
───発情したピンクの瞳が、何か言いたげにこちらを見つめては逸らされる。
レイモンドがいなくなったあとはそれが露骨だ。
ただの薬の副反応なら、それをするのは自分ではなくレイモンドでも良かったはずである。
「·····何にせよ、お薬は処方通り投与します。これはミチル様のご命令でも───」
説明しながら、ジェロンは自分自身の優柔不断さに嫌気が差した。
今のミチルにこんなことを言っても無駄だ。
この薬はマナの受け入れをスムーズにするため、対象の自我や抵抗力を薄れされるものである。
それもとても強力で、今日を越せば性交することしか考えられなくなるだろう。
それなのに──ミチルがあんな瞳で──声で甘えてくるから、一挙一動に振り回されてしまう。
こんな仕事はクソ喰らえだ。
ここにいるのがミチルでなくほかの獣人だったならば、こんなにも耐え難い任務にはならなかったはずだ。
滴る愛液の臭いに鼻がおかしくなりそうだ。
悪魔の本能が告げるのだ。
この生き物に子種を植え付けたいと。
抵抗することも出来ない、絶好の獲物だと。
「先程から·····私に何をお望みですか?」
どんなつもりで、甘声で名前を呼び、媚びる視線を向け、子種を植え付けるための性器を晒しているのか───されるがままのミチルに問うたところで、理不尽極まりない質問だ。
どうやら主と共に、こちらまでおかしくなったらしい。
「·····にゃ~·····♡」
果たして返ってきたのは、答えどころか言葉でもない鳴き声だった。
怯えて震えた瞳に妖しい期待がこもっている。
この青い目がどんな風にか見つめたからだろうか。
口付けをしたら、甘い舌はチロチロとこちらの唇を舐めてきた。
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