悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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二章

re.《122》ピアノと記憶

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こっちを見上げたミチルはぽちくりと瞬きする。

純粋無垢な眼差しが痛い。まじまじと見つめられるほど、絶対的強者であるはずのこちらが調子を狂わされそうになる。


「ああ、クソ」

「!」


ハインツェはミチルを抱き上げ椅子へ腰掛ける。
そして膝の上にミチルを乗せ、軽く鍵盤を撫でた。


「チル、ピアノ好きなの?」


甘い匂いがする後頭部を嗅いだのはわれながら変態くさいが、いつもの軽薄なキャラを被ればなんてことない。


「うん」


下から、素直な返答が来た。

語尾は嬉しそうだ。
こんなに嬉々とした返事を、久しぶりか、或いは初めて聞いた気がする。
ただのイエスに、何故か胸がこそばゆくなる。受け入れられたのは自分ではなく、このピアノだというのにだ。


「トクベツに弾いてあげるよ」


楽器を習った記憶は無いが、なんとなく弾けるくらいには長く生きている。

多分どこかで聴いた曲だ。
最初の音を叩いたら、指は勝手に鍵盤を滑り始めた。






"心を溢れた分の想いだと思うんだ"


涙を拭った彼が呟いた。
いつかの日、ここで囁かれた切ない声だ。


"誰かを·····あるいは時や、場所を想って慈しむことができる"


見透かすような赤い瞳。

血よりも鮮やかで、ルビーよりも濃い。
猛毒すら敵わない、艶やかな闇を見た気がした。


"───俺がピアニストに見える?"


白い記憶の中で、彼がそう聞いた。

白銀の輝きを持つのに、うっかり吐息が漏れるほど美しい男だった。
初めてありのままの自分を受け入れてくれた相手。

切なくて甘い香り。
抱き寄せた白いシャツ。溢れるようなピアノの音。
彼は────。


"ピアニストの‪✕‬‪✕‬。俺のことは‪✕‬‪✕‬と"


「ル·····」

「───チル」


次の瞬間、視界は白いものに阻まれた。
後ろから抱きすくめられたのだ。

硬い腕と広い胸元。
記憶とは違う声に、ぼうっと前を見すえる。

(あれ·····?)

少し身体がほてって、目元が熱い。

まさか。
そんなこと、あるわけない。
けれど、もしかしたら。

そっと後ろを振り返りかける。
しかし、視界の端に映ったのは、淡いラベンダー髪だった。



「好きなんだ·····」


「·····?」












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