悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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re.《121》天邪鬼な悪魔

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「·····。」


数秒後にはまた同じ煩悩が脳内を埋め尽くす。
やっていられない。
扉へ当てつけして、ハインツェは部屋を飛び出した。


(簡単なことだ)


あんな子兎一匹、どうってことない。
機嫌を取るなら、ヨハネスみたいに甘いものをやればいい。この自分が誰かの機嫌取りをするなんて癪だが、相手がアレなら、別に悪くない。
むしろ────。


「·····」


耳を澄ませたら、一定の速度がトントンと音を鳴らす。
とても小さな足音だ。
ハインツェは後を追って、階段を昇った。

屋敷の最上階は、3階までとなっている。
4階は屋根に属していて、物置部屋と言っても間違いないためだ。

ここまで来たのはいつぶりだったろうか。
日当たりが良いから、埃が舞っているのが確認できる。まるで忘れ物を取りに来たような気分に駆られた。


「あいつ、どこ行ったんだ·····?」


風が吹いた。
もう少し先だ。無人となった割に状態の良いフローリングを大股で進む。

両扉の隙間から、動く何かが確認できた。
扉を開けかけたハインツェは、はたと動きを停めた。

初めに目に入ったのは、黒い物体の上に置かれたぬいぐるみ。
ミチルは足も届かない椅子にひょいと腰かけている。

手を伸ばしたのは目の前のオルガンピアノだ。

ピアノが弾けるのか?

そう思ったが予測は外れて、細い指はポロポロと高い音だけを零れさせた。

(何してんだ?)

そっと扉を開けて近寄る。
うなじが細いせいで、後ろ姿は異様に頼りない。

近づいても相手は気が付かない。
名前を呼んでも、細い指は音を奏で続けた。

無視しているのではない。

(まるで·····)

思い浮かんだのは、空になった容器や、蝶の蛹。
肩を掴むと、相手は驚いてこちらを振り返った。
くい込んだ手に、ピンクは怯えた色を宿す。ハインツェはハッと手を離した。


「弾けないのに一生懸命鍵盤ポチポチして、オリコーサンだね」


相手を茶化す口調は、天邪鬼な自分の癖である。

違う。今のはナシだ。
哀れな兎に優しくしてやるくらいできるだろう、ハインツェ。
自分自身に言い聞かせ、ピアノに手を置く。


「あー、だからさ·····暇なら、もっとマトモなアソビがあるっしょ?例えば俺と·····」











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