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二章
re.《93》真夜中のダイヤモンド
しおりを挟む白金の髪、どこまでも澄んだ碧眼、極めつけには白薔薇が咲くような微笑み。
あんまりにも純真そうだから、彼にはハインツェやアヴェルの下世話な話が分かっていないのだと思ったりした。
所謂、性的なことだ。
こっちを見下ろしたヨハネスが、あのころと同じように微笑む。
「会いたかった」
そう囁く唇が、そっとこめかみの辺りで傾けられる。
こんなにも煽情的な男の色気を放つ青年が、何も知らないわけないじゃないか。
無知だったのは、余程自分の方だ。
こちらを抱きすくめた手がスカートの中でわずかに動く。
彼だって自分を狙う肉食獣だ。遠方から帰ってきたせいか、久しぶりに見たせいか──どこか大人びたヨハネスは知らない人みたいで、我儘は言えなくなった。
見えたのは、夜空に輝く屋敷だった。
月の光を浴びて、それはオーロラみたいに滑らかな光沢を見せる。
屋敷内は、真夜中のダイヤモンドの中に入り込むみたいだった。
細かに光る階段を登り、廊下を進む。
他人の気配は全くない。
空き部屋をいくつも通り過ぎ、やってきたのは琥珀に縁どられた扉の前だった。
片手で抱き上げられたまま、もう片方の手が無造作に扉を開ける。
なんてことはない。
今は月光が射す海を思わせるようなベッドルームだ。
また、勝手に持ち帰りされた。
「うさぎちゃん·····」
可愛らしい響きの呼びかけだが、声音はしっかりした男のものだ。
彼はとても優しく自分を呼ぶ。
だから、こちらを今にも食おうとする獣であることを忘れてしまう。
柔らかいプラチナブロンドが頬を撫でる。
ミチルは目を見開いたまま固まるが、期待は外された。
あの時みたいな口付けは頬に落とされて、ヨハネスは後ろ手に部屋の扉を閉めた。
がちゃりと音がする。
ここには誰も来ない。
それなのに彼は、扉の鍵も閉めたのだ。
ベットの上へ降ろされる。相手は豪奢なジャケットを脱ぎ、ネクタイへ手をかけたところでこちらと目が合うと、数歩で近づいて身体をかたむけてきた。
「!」
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