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二章
re.《90》分からない彼
しおりを挟む「うわぁ·····とってもお似合いです」
レイモンドの賞賛も、もはや嫌味と変わらない。
会場は賑わっていた。
入場するとき、扉の前で待っていたのは思わぬ人物だった。
ハインツェとアヴェルだ。
振り返ったアヴェルはこっちを頭のてっぺんからつま先まで見て、尻上がりな口笛を吹いた。
「似合うじゃねえか」
「あ·····」
「·····?」
ハインツェが何か言いたげに口を開く。
こちらへ歩み寄ってくる姿はどこか挙動不審だ。
「似···ッ·····」
ミチルは首をかしげ、しかしハインツェは目が合うとどこかぎこちなく髪をかきあげた。
「や·····し、下着も女物なら完璧っつうか?」
「··········。」
耳を傾けるんじゃなかった。
さっきの彼の様子が気になって、少し心配していたのに。
「そりゃあそうだけどよ·····お前、普通"ソコ"で───」
「あー!ほら、もう時間だろ?」
アヴェルの言葉をさえぎり、最低男が手を差し伸べてくる。
ミチルは仕方なく彼の手をとった。
反対側の手はアヴェルに導かれ、2人に挟まれる形になる。
前晴れ舞台のように自分のことを囁き貶す者はいなかった。
ルシフェルにエスコートされてからだ。
しかし今日は、自分を見る目が少し違う。
「血色の通った肌だ·····」
「温かい血の匂いがする」
どこからが聞こえてきた言葉。
こっちを見下ろしたハインツェがなにかに気づいたように眉間を険しくさせる。
彼は近くにいた使用人になにか耳打ちした。
「·····なに?」
好奇心が勝って問いかける。
直ぐに戻ってきた使用人の手には薄手のショールがあった。ハインツェはそれを奪うようにして受け取り、返事はしないまま、こちらの肩口へかけた。
「羽織ってな」
可愛がる素振りをしていじめてきたり、全く遠慮がないくせに何か言いかけてやめたり、ストレートに貶してきたり、急に素っ気なくなったり。
今度は、女装姿が不快だからせめて布を羽織って隠せとでも?
もう彼に振り回されるのは疲れた。
賓客が不意に談笑を辞める。
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