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re.《86》お気に入り
しおりを挟む酷く抱かれるのは嫌だが、昨日みたいに、目のやり場に困るような赤裸々体験は耐えられない。
(いっぱいいじめられたのに)
もうそろそろ離して欲しくて少し身じろぐ。
嫌じゃないなんて、本当に自分はおかしくなってしまった。
ハインツェは自分のことが嫌いでは無いらしい。
分かってる。気に入られていなければ納得のいかない言動は沢山ある。
でも、それも自分にとっては納得いかない。
「ん?」
顔を覗き込まれて、慌ててぷいとそらす。
甘やかすように茶化したり、あんな瞳で見つめてきたり───勘違いしてしまいそうになる。
彼らに感じている愛着や愛情を、ハインツェも多少は、なんて。
また何時食われそうになったり、ひどい仕打ちを受けるか分からないのにだ。
天界での猛烈な争いの理由は、紛れもなくこの自分だった。
彼らが獲物の取り合いをする理由なんていくらでもある。
他に取られるのが嫌だと感じる所有欲や独占欲、喰らいたいという捕食欲等。それらは、傲慢な悪魔にとって大いに争いの動機となる。
ハインツェは自分を気に入っている。
でも「お気に入り」の種類はこちらが抱く愛着とは違うし、優しいのも彼の気まぐれだ。
けして勘違いしてはいけない。
「ほんと喋んないよな」
「む」
唇の先頭を人差し指でつつかれる。
「えっちの時はあんなに鳴くのに」
デリカシーの欠けらも無いやつだ。
いくら美形だからって、こんなに下世話な発言をする悪魔を「きれい」だなんて、どうかしていた。
「ね」
短い1文字でまた話しかけられる。
起き上がってきた相手の肩から羽毛が滑り落ちる。現れた上半身の肉体美にパニックに陥るが、当の本人はそんなこと気にもせずこちらへのし上がってきた。
「俺の名前呼んでみてよチル」
サラリと光った甘い髪の毛に目を細める。
(名前?)
なぜ悪魔は、自分の名前を呼ばせたがるのだ?
「チルのかわい~声聴きたいな」
ハインツェはこちらをからかっているんだった。
それなのに彼の一挙一動にドギマギするなんて、阿呆らしい。
ミチルは無言で目を逸らした。
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