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re.《62》再会
しおりを挟む純粋な青年の微笑みが闇へ滲んでゆく。
あまりにも穏やかな表情に、救われる気持ちになるのが悲しかった。
「俺はその日が"楽しみ"なんだ」
───脅しでも命令でもない。
自分にはもうそんな力はない。
権力からも開放された、ただの1人の悪魔として生まれ変わることが出来た。
これが愛情なのだと信じたい。
そんな想いを告げるにはまだ臆病な、やはり未熟なままの初恋だ。
「うん·····」
頷い音色は、それだけ呟いて、そっと空へ消えた。
─────────────────
目が覚めてから、しばらく頭がぼうっとしていた。
切なくて静かな夢だ。
彼の声は、まだ耳元に新しく残っている。
目元を擦ろうとしたミチルは、また、覚えのある異変に気が付かされた。
お腹の辺りがまた変な感じだ。
内側の太い血管が脈打つような、つつかれるような感覚。
これはなんなんだろう?
あまり気にしていなかったが、もしかしたら何かの病気なのかもしれない。
不安になったところで、ふと、身動きが取れないことに気がついた。
「·····?·····??」
みぞおちの辺りに、固いくい込みがある。
そっとそこに手を添えてみると、温もりのある物体が巻き付けられていた。
「·····あ·····?·····やっと起きたのか·····」
「ニャ~」
耳元で聴こえる荒々しい低音に、思わず臆病な鳴き声が漏れる。
「遅いんだよ、寝坊助」
乱暴な言い方と裏腹に、耳元で甘いリップ音がした。
引き寄せる力が少し強い、褐色の腕。
眠りにつく前、やむを得ず身を任せた相手とは別人だ。
「アヴェル」
久方振りに見る男前は、名前を呼ぶと何故か嬉しそうに八重歯を見せた。
彼らが帰ってきたのだ。
首元で野生動物みたいな鼻息が聞こえる。
噛み付くところを探しているみたいだ。
逃げようとしたら、自由だった手を掴まれてうつ伏せに捕まってしまった。
「じっとしてろよ」
じっとなんてしていられるもんか。
久しぶりに顔を見たので不覚にも喜んでしまったが、起きるやいなや羽交い締めにして、一体何するんだ。
天使のような美貌をして、実はずる賢いヨハネスや、あの悪魔のようなハインツェも戻ってきたのだろうか?
「ふニャッ」
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