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二章
re.《58》ワタの塊
しおりを挟む上唇をトントン叩く指が焦れったくて、ミチルはパクリと噛み付いた。
こんなに勿体ぶらされたのだ。もう離してやるものか。
キュッと口に力を入れてジェロンを見上げる。
そっとほくそ笑むブルーに、言葉を失ったのはこちらの方だった。
「ゃ·····♡·····ニャぅ·····♡」
ぐちゅぐちゅと口の中で水音をたてる指。
とろけた舌も丁寧に捏ねて撫であげられ、うっとりと目を細める。
喉奥から波のような嗚咽が押し寄せる。
しばらく、身勝手に弱い痙攣を味わっていた。
頭を撫でる手に擦り寄ったのは無意識だ。
相手が一度動きをとめ、息を吸い込む気配がした。
「お体の具合はいかがですか?」
「·····?」
具合が悪いなんて言っていない。
長い指が、彼からは想像もつかないほど甘く耳元を撫でる。
意図のない愛撫にびっくりするが、すぐに体温を計っているのだと理解した。
「大事なお身体ですから·····」
そう優しく告げる声に首を傾げる。
何かが変わった気がしたのだ。
(なにが·····?)
思考は眠気に邪魔されて上手くいかない。
冷めた表情とは裏腹の、丁寧な触れ方にウトウトする。
欠伸を落としたら、こちらから手を離したジェロンが手袋をし直すところだ。男らしいのにしなやかな指を隠すなんて、もったいないと思う。
ミチルはそっとまぶたを閉じた。
ああでもない、こうでもないと、遠くで話し合う声が聞こえる。
実際は1人の声だ。ブツブツ言うのが近づいたり遠ざかったりするのを感じて、ミチルは軽く瞬きした。
そして真っ白な草原を進み始めた。
夜か朝かも分からぬ、ぼんやり青い空。真上には白い月が浮かんでいる。
ここはいつもの夢だ。
(どこにいるの?)
目が覚める前に彼を見つけなければ。
全て聞き出さないといけない。
何を聞きたいのか、何を話すのかすら分からない、そんな事をだ。
いつの間にか声が聞こえなくなった。
真っ直ぐな青年の声だ。
白い物体を見つけた。
ミチルはしゃがみこんで、うさぎのぬいぐるみを抱きしめた。
「ねえ」
揺すっても、ワタの塊は重力のまま揺れるだけだ。
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