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二章
re.《40》平手打ち
しおりを挟むシャツが脱ぎ捨てられ、屈強な男の身体が現れる。思わず「ミィ」と鳴き声が漏れた唇を撫で、彼がこちらにかがみこんでくる。
キスは肌に触れるよりも優しかった。
「ン·····っ」
何度か啄まれ、上唇に舌が伸びる。
「ゃ·····っ!」
飛び出した手は彼の頬を叩いた。
咄嗟にそうして、乾いた音が響き渡った時、ミチルは全身から血の気が引く思いだった。
「·····」
傷一つできない綺麗な顔だ。
じっとこちらを見つめる瞳は変わらない。
「そんな風にしたら───」
「!」
行き場を無くした手は捕まえられた。
「手を痛めるだろう」
「·····ひぁぅ·····っ」
耳をぱくりと食べられてしまった。
入り込んできた吐息に、全身鳥肌が立つ。
手を痛める?
叩いたのはこっちだ。
なぜ、ここまでして、罰のひとつもないんだ?
(も、だめ·····っ)
こんな愛撫は知らない。
彼の優しさなんて、感じたくない。
「ま、って」
名前を呼ぶことを躊躇って、そう呼びかける。
無視されるかと思われたが、相手はそっとこちらを覗き込んだ。
「望みがあるなら言えばいい」
彼に痛みを与えた手のひらには、舐めるようなキスを与えられた。
何かを待つような表情。
それは、天界の悪夢を思い出させた。
「も、はやく·····っ」
1度言葉を忘れる。
聴きながら、紫の瞳が妖しく輝いたからだ。
どうしてそんな顔をするのか?
「早く·····なんだ?」
到底分からない。
指先にもキスを落とされて、とうとう唇が震え出す。
何故か、身体が火照って、下腹が重たいのだ。
「はやく、終わらせて·····っ」
彼とは一刻も長く触れ合ってはいけない。
何かが壊れてしまいそうだ。
「随分臆病な誘い方だな」
「ぁ」
後ろになで付けられていた黒髪がほぐれ落ちる。
闇の中に紫の月が輝いている。
「叶わない願いばかり口にするな」
望みは却下された。
ダリアがコップの水を飲み干して、滴った雫は頬に落ちてくる。
食事前の1杯を思わせた。
「我が子を育てる身体は、何よりも大切に扱わなければいけない」
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