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re.《37》昨日の記憶
しおりを挟む───このルビーは、こんなにも眩しかっただろうか?
仁王立ちするぬいぐるみへ手を伸ばす。
掴もうとしたら、目の前は白い光に包まれる。
「じゃあな」
(そうだ·····ここは·····)
錆び付いた思い出の中に、軋んで開かなくなった扉がある。
不服そうな顔をした青年。
大人びているのに未熟で、孤高でありながら危うい雰囲気をまとった、夢の中の出来事がしまわれている。
「まって·····───」
不意に、視界が遮断される。
記憶はそこまでだった。
「····················」
次に意識が戻った時、まぶたの向こうは薄く明るかった。
確かひとり寂しく深夜を迎えて、眠ってしまったのだ。
自ら辱められに足を運ぶだけでなく、穴には子を授かりやすい香油まで塗りつけて、心臓がとび出そうな不安を堪え、彼が来るのを待っていた。
そしてダリアは来なかった。
思い出したらまた涙腺が熱くなってきて、慌ててうつ伏せに寝転がる。
上質なベットだ。
崩れたガウンから飛び出した足がシーツをさすれば、素晴らしい心地良さに包まれる。
手触りはまるで、今の自分の気持ちと比例するみたいだった。
(·····ッ)
まただ。
下腹の辺りが、熱い。
少し前から感じ出した違和感だが、今はそんなことどうでもいい。
そうだ、今すぐに部屋に戻って、あのぬいぐるみを見てこよう。
それにしても、サボンとしとやかな花の香りが眠気を誘発する。
あくびをしたミチルは、不意に目の前の枕を見つめた。
「··········?」
しばらく脳内がフリーズする。
自分の寝室じゃない。
そもそも、昨日は椅子の上で眠ってしまったはずだ。
何者かがベットまで運んでくれた。
でも、ここは─────。
ガチャリ。
響く扉の音はとても大きく聞こえた気がした。
振り返った先で、視線は勝手に相手へピントを合わせる。
シャツの腕をまくり、ボタンをふたつ開けて気崩している姿はとても珍しい。
思わずそんな感想を持つほど、非現実的な朝の風景だった。
「昨夜だが·····」
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