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二章
re.《35》眠り
しおりを挟むここまで来たはいいが、彼を前にしたらどうすればいい?
頭の中でシミュレーションする。そして数秒後、パニックに陥りかける。
分からないのだ。
彼が怖い。
彼が残忍だから?
血も涙もない、独裁者だからか?
それだけじゃない。
だって、彼を·····────。
「あ」
1文字を最後に、ミチルは無を貫いた。
椅子の上で膝を抱え、じっと動かなくなる。
人間界の頃とおなじ体制、対策。結局、何も変われていない。
2、3時間そうしていたと思う。
そうして長時間の緊張で身体中が軋み、しかし本能に抗えずまぶたが重たくなってきた頃、やっと理解した。
彼は今夜、ここには来ないと。
また、当たり前のことに気が付かされた。
彼が来ると疑いもせずに、顔を合わせたら、触れられたらどうしたらいいかなんて考えて、おかしくなってしまいそうな鼓動に耐えていたのだ。
馬鹿みたいだ。
深夜も最高潮を指す時計を見ていた。
最初は数字が、そのあとは時計の形さえ曖昧な視界になった。
瞬きを繰り返しても、雨水は新しく湧き出てきた。
涙が出る理由は考えたくなかった。
もうずっと前から、自分すら自分のことが大嫌いだ。
月も寝静まる深夜二時。
冷えた水溜まりと食事を残して、眠りについた。
「───·····───··········」
どこかで、誰かの声が聞こえる。
とても安らかな心地だ。
ずっと眠っていられたらいい。そう思う。
「·····───おい、起きろよ」
驚くことに、"誰か"はこちらに話しかけていたみたいだ。
なんにせよ、この自分に用のある者は、ろくな奴がいない。
きっとそうだ。
どうでもいい。
今はただ眠っていたいのだ。
「起きろってば」
それにしてもしつこい。
ついには肩を揺すってくるので、ミチルは仕方なく片瞼を開けた。
そして目の前にいる人物───否、物質に、はたと瞬きを忘れる。
「はぁ·····手間をかけさせるなよ」
相手は短い腕を組んでふんぞり返っている。
ミチルはこれでもかというほど両目を見開いて相手を凝視した。
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