悪魔皇子達のイケニエ

二章

re.《２１》教育係

痛みは長引かないが、叩かれる瞬間はかなりの衝撃だ。

恥辱心と痛みは教育の礎だという。
そしてどうやらこの教育係は、人に痛みを与える加減まで習得しているらしい。
もしかすると、物凄く優秀で、最悪な人材をよこされたのかもしれない。


「どうか私の為にもおしおきを免れてください」


泣きたい気分になっていたら、さっきははたかれた手の甲にそっと口付けを落とされた。


「私とて、"あんなに"柔らかくて可愛らしい御居処には、本来このような乱暴をしたい訳ではありません」


不意に甘くなる声音は昔と変わらない。
"あんなに"？"このような"だって？

この、変態鬼畜███野郎め。

幼い顔立ちからは想像もできない暴言を脳内で悪態付きながら、結局ミチルは真剣に授業を受ける他なくなる。


「一緒に頑張りましょうね」


礼一つ習得するのに、結局お尻は6回叩かれた。

辛うじてパンツを脱ぐことは無かったが、心は挫けた。
とても美しいです、素敵ですと賞賛するのも教育方針のひとつだろうか。不覚にも少し嬉しいと思ってしまったのが悔しくて、微笑から顔を背ける。

彼に見蕩れたなんて血の迷いだ。
やっぱり胡散臭い。

前は、どんな痛みだって耐えられると思っていた時期があった。
少しわがままになったのだろうか。

いいや、違う。

大好きな人を喜ばせたくて、そのためならなんでも出来るなんて、馬鹿みたいな夢を見ていた。

黒い悪魔は、こちらの心を踏みにじり、そして底知れず心身を蹂躙した。
言うことを聞かなければ脅し操る。確実に冷静に侵食し、強欲の為にはいくつの命や、あるいは肉親をも殺めようが、気にもとめない。


「··········」


部屋まで送られる頃、窓の外は暗くなっていた。


「あのぬいぐるみは·····」


自室まで見送ったレイモンドが、ふとベットの上の兎を見やる。
あの日々のことを、彼は知っている。

ホコリの被った思い出の玄関に、土足で踏みいられるような気分だった。



   思い出したくない。
だってもう、あの温もりは───。


「目隠し·····？」

「！」