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二章
re.《5》悪いこと
しおりを挟む「·····お転婆さんなところは、変わりませんね」
抱きとめられていた体は、まるで壊れ物を扱うように地面へ下ろされる。
背の高い相手で、前を向いても胸板の厚いベストしか見えない。
見上げるより先に相手が身をかがめ、目の前に跪いたではないか。
「まさかこんな風にお出迎えいただけるなんて」
くすんだクリーム色の毛を緩くオールバックにした、とても見目の良い男。
嬉しそうに細められたグレイの瞳と対称的に、ミチルはギョッと目を見開いた。
「至極光栄です」
縁の薄い眼鏡が胡散臭さに拍車をかている。
流暢な敬語と薄ら笑いでこちらをからかってきた、天界の悪魔だ。
なんで彼がここに?
もう会うことは無いと思っていた宿敵を前に、臆病な兎は結局逃げ出した。
後ろから聞こえてくる自分を呼ぶ声には当然知らない振りをした。
けれどもう息も絶え絶えだし、さっき鋭い痛みを覚えた足裏が、地面を踏むたび悲鳴をあげる。
挫いてしまったのだろうか?
それにしても痛い。じんわり涙が滲んだ視界の向こうで、突き当りから黒い影が飛び出した。
ドンッ。
ぶつかって転びそうになったのを、黒い影に引き寄せられる。
今度は幽霊か、怪物か。
兎にも角にも離れようとしたら、腰を支えた手が、今度は手首を圧迫した。
絶対に逃げられないような、硬い手だ。
「·····お一人で追いかけっこですか、ミチル様」
抑揚の少ない低音に、ミチルは敗北を確信した。
「お一人で出ていかれてはいけないと、何度言えば分かるのですか?」
有能なスタイルに着こなされたスーツにはシワひとつない。
立ち姿、容姿、顔立ちどこから見ても完璧なこの使用人の唯一の欠点を上げるとしたら、今は切れ長の眉が顰められてあまりにもおっかなすぎることくらいだろう。
「ミチル様」
「ひ」
ズシリ、と、重い声音に、思わず声が漏れる。
無表情なのに鬼の形相だ。
普段、ちょっとやそっとのことでは感情を顕にしないのに、何が彼を、こんなに恐ろしい顔にするのだろう。
逃げられるわけでも無いし、城の中じゃないか。
こんなにも頭ごなしに非難されるほど、悪いことなのか?
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