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一章
229.食べられる兎
しおりを挟む「·····?」
言葉を理解する間もなく、喉元に鋭い切っ先があてられる。
「渡すか!」
シャープな頬に、褐色の拳がめり込んだ。
高く上がった爆発に目がくらむ。草原に転がり込んだミチルは、攻撃を繰り広げて輝く夜空を見上げた。
アヴェルとハインツェは互いを牽制し合い攻防する。
まるで星を散らすような爆音と光に、呆然とすることしか出来ない。
目の前に飛んできた岩崖は白い光に砕かれた。
「·····!」
瓦礫に汚れたシャツの背が、数メートル先に佇む。
振り返ったブロンドがこちらへ近づいてくる。
眩い攻撃の数々に、彼の表情を確認することは出来ない。
「いや·····!」
這いつくばったまま芝生を後退するが、すぐに影に覆われた。
震える両手は、ふた周りくらい大きな手のひらに包まれる。
首筋で生ぬるい吐息の気配がすると、全身からまた力が抜けた。
「どこに行くの」
「ひっ·····」
怪我をした耳を舐められる。
「痛かったね」
「ニャ、ふ、」
「もう大丈夫·····」
こんな時にもかかわらず、大きな手に安堵する。そして先程と同じく首筋に当てられた牙に、今度こそ逃げられないと理解した。
「お利口さんだね」
はちみつみたいな囁き声に身を任せて、力を抜く。
しかし、それが突き刺されることは無かった。
覆いかぶさっていた重みが吹き飛び、ヨハネスの身は岩場へ叩きつけられる。
冷気を纏った霧の向こうから、最後の男が姿を現した。
涼しい顔をしている。
まるで、もう全てが解決したような面持ちだ。
彼はこちらに背を向けたまま言った。
「少し待っていたまえ」
「ダリ·····!」
声は届かなかった。
伸ばした手は見えない壁に弾かれる。
彼の魔力がいくつもの層を作って、空間を孤立させる。
いくら声を上げても、それを聞かせるどころか、ほかの三人はこちらに気がつく様子もない。
「おいおい、抜けがけはナシだろ?」
芝生に降り立ったのはアヴェル。
黄金の瞳から赤黒い液体が滴る。
「なら分け合おうか?」
反対側に降り立ったハインツェの提案を肯定する者はいない。
本人すら全く気のない発言だということは、確認する必要もない。
「冗談じゃねえ」
4人は一定の距離を置いて対峙し合う。
遠くから、未だに歪な音が聞こえる。
「お前たちのおかげで」
ダリアはゆっくりと片手を掲げた。
「膨大なマナも補えるだろう」
「·····!」
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