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しおりを挟むある日の深夜、彼の瞳に青が沈むのは、自分をとてもやるせない気分にさせた。
毎夜、他の色を映す桃色。青い満月が吸い込まれる様を見て、確かに、あまりにも卑しい劣情を抱いた。
「·····ここで何をしている?」
音もなくやってきた気配を振り返り、ジェロンは形式通りの礼をした。
「室内最終確認を終わらせ、施錠するところです」
ここは次の生贄に与えられる部屋だ。
数秒の沈黙の後、単調な声が確認はもう良いと呟く。
施錠も必要ないという。
主を失った部屋は綺麗に整理され、少なくとも半月開ける必要がある。
その間、思い出を汚されないよう、他人の立ち入りを固く禁止する。マナを重視する悪魔界での習わしだ。
獣人の生贄といえど、彼の伴侶だったものの部屋だ。
そんな配慮すら必要ないと言えるほど、彼にとってミチルは───。
「出て行け」
ジェロンはふと、我が主を眺めた。
それは気が付くと言うに近かった。
彼は王にふさわしい。
こんなにも冷たい声で、彼を恋い慕うミチルを操った。
ミチルはここへ来るべきではなかった。
そしてやっと、天界へ召されたのだ。
小さく愛らしい主の幸せを願うのなら、自分の元からいなくなったことを祝福するべきなのだ。
部屋から1人分の影が消える。
西陽の差し込む窓にはカーテンをかける。暗くなると、ベットには温もりが灯っているような気がした。
「必要ないとも」
ダリアは誰にともなく呟いた。
なぜならば、この自分の手によって、ミチルはすぐここへ戻ることになる。
次は自ら逃げ出さないように、内側からも開けられない鍵をかけよう。
愛していると、あの声が告げるのならば、望むことを全て叶えてやる。自分を捨てルシフェルを選んだことも許して、そんな薄情な弱ささえ全てくまなく愛すことが出来るはずだ。
ミチルを手に入れる方法が一つだけある。
それが世界ひとつを滅ぼす禁忌だとしても、決意は揺るがなかった。
日が暮れる頃、城からは最後の気配が消えた。
───お知らせ───
いつもご愛読ありがとうございます!
誠に勝手ながら、私情により更新を3週間休載とさせていただきます。
お待ちいただけると幸いです😖
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