237 / 798
一章
207.残された仕事
しおりを挟む※206.にて、表記間違いを訂正しました。
ご指摘ありがとうございます😭
─────────────
───不意に、空間が歪んだ。
足場の岩が亀裂を走らせる。
"サタンの監視に縛られる前の魔力を取り込めば、天界への侵入も不可能じゃない"
集結したマナは、ハインツェの命令どおり動き始めたのだ。
天界への道が開ける。
マンホールが口を開くのと同時に飛び出したのはヨハネスだ。
その後を追ってアヴェルも続くが、行先は思わぬ事態に阻まれた。
「!」
目の前に鋭い輝きが飛び込む。
ハインツェからの攻撃を避けた途端、ひび割れた地面はタイミングを計ったように崩壊した。
「悪いな!定員オーバーだ」
「はぁ?!」
能力を酷使して青ざめた顔が振り返る。
不敵な笑みを最後に、マンホールは忽然と消え去った。
遠くでは、野生動物が遠吠えを響かせている。
虚空に飛んでいった鳥ははるか遠くだ。
残されたアヴェルは呆然と呟いた。
「·····嘘だろ·····」
ベットはマットまで新品に取り換えられている。
主を失った部屋だから、しばらく掃除は入らないだろう。
ここはいつも、何故か明るかった。日当たりが良いと思っていたが、見渡すいまは、暗く冷たいただの空き部屋だ。
なんとはなしに、視線をさ迷わせる。
床に転がった金平糖を探しているのだ。
「··········」
ジェロンは無造作に扉を閉めた。
馬鹿なことをしている。
いくら探せど、あんなにこぼしていた食べかすはおろか、亜麻色の髪の毛1本見つからない。
嗅覚は特別鋭い。そのせいで、日に日に薄まった匂いが、ついに完全に消え去ったことまで理解してしまう。
仕事はとてもスムーズだ。
こちらを悩ませる我儘も、理不尽な文句も聞こえない。
くだらない相談を聴くことも無くなった。
そしてなにか大事なことを忘れたように、胸の辺りに穴が空いている。
悪魔界へ献上された生贄としてここへ来た頃から、ミチルは酷く脅えていた。初めはただそれだけの理由だと思っていた。
他人に世話されるのに慣れていない態度や、手を振りあげると怯えた色をする顔。
ふとした時に見せる寂しげな横顔。
人間界でも、彼は王族らしからぬ仕打ちを受けていたと、すぐに理解することが出来た。
鬱陶しくて面倒な仕事を任されたと思っていた。
早く喰われてしまえば良いと思っていたし、実際そうなるとも確信していた。
解けるような笑顔が、この胸に飛び込んでくるまでは。
63
お気に入りに追加
2,279
あなたにおすすめの小説


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる