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一章
205.イライラ
しおりを挟むサタンは所謂神だ。
意志のままに万事自由自在が可能な神に肉体は存在しない。唯一ある心臓は、第一子であるルシフェルに宿っている。
澄んだ深紅は恐ろしく、寂しそうな目をしていた。
レイモンドの分体には、確かに彼が乗り移っていた。
どこに行ったのだろう?
全て夢だったのでは?
この疑問は、時間が経つほどに答えが分からなくなっていった。
「可愛いお人形さんですね。見せていただけますか?」
一言も発さず、再び首を横に振る。
そんなことを口実に近づいてくるのは分かっているのだ。
「ではマッサージなどどうでしょうか?リラックスできますよ」
今夜のことでお気を使われることでしょうと彼は言う。
答えは分かっているだろうに、懲りない男だ。
「それとも本をお読みしましょうか。中庭をお散歩するのも良いですね」
「嫌」
イライラする。
レイモンドだって高位の貴族。ジェロンが自分から解放されて喜んでいるように、面倒な仕事を押し付けられたと思っているに違いないんだ。
優しくしたり、構うのはやめて欲しい。
「出てって」
ここに来てから何度目かも分からない単語をつぶやく。
ほほ笑みを浮かべる横顔は心做しか寂しげだ。
罪悪感に耐え兼ねてぬいぐるみを差し出す。相手は少し冷たい感じのするグレイを軽く見開き、さらに少し口角を上げた。
「これはミチル様が持っていてください」
別にあげるなんて言っていない。ちょっと貸してやろうと思っただけだ。
そもそも、ぬいぐるみに執着心などない。
ただ、この赤い宝石を見ていると、ただの人形には見えなかったのだ。
長い手はぬいぐるみを通り越し、こちらの手をとる。
昨日変なところを愛撫し続けた指だ。逃げようとしたら指に指を絡ませられてしまった。
ミチルはギョッとして相手を見返した。
「分体はどうぞお好きなように」
彼は視線を伏せ、手の甲へ触れるだけのキスを落とす。
ドギマギしていると、相手の体制はそのまま、視線だけが不意にこちらを見上げた。
「物足りなくなったら、いつでも私をお呼びつけください」
数秒の沈黙の後、扉は鍵をかける音を残し閉ざされた。
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