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一章
181.芽生え
しおりを挟む眠っていた心臓が息を吹き返すのもまた必至だった。
───行かないでくれ。
望むものはなんでも手に入れると云った。
力でしか愛を縛り付けられない。そして彼女は力にすら興味をなくし、自分の前から消えた。
血の海を創ったのは愛のためでは無い。
イザベルが自分を裏切ったから、見せつけてやろうと思った、全て醜い欲望のためだ。
惹かれたのも、同じ孤独を感じる彼女に理解され愛されたいと望んだからだ。
長い年月、命が誕生し尽きるのを見届けできた。
彼女自身を愛したのではなかった。
皇子達の中でミチルの存在が大きくなるほど、彼らを通じてミチルを感じるようになった。
自分にかけられている訳では無い言葉、想い、温もりや匂いを知っている。
知るほど、やはりこちらだけが一方的にミチルを知ってる。
ミチルが記憶の中に彷徨うようになったのは、自分の記憶に彼が引き寄せられたからだ。
感情があっても、遠く離れて他人のもののようなのだ。
彼に興味があるのはサタンの生々しい欲望で、自分自身が直接彼と関わりを持っているわけでもない。
だから呼んだ訳では無い、早く元のところに戻れと警告した。
彼を初めて間近に感じた時、まるで子供のように粗末で呆気ない情けなさを感じた。
後ろめたくて恥ずかしい、何かを隠すような感情だ。
その正体を未だ知りえないうちに、ドクドクと激しい音が聞こえてくる。
これに呑まれれば、彼を見た時に芽生えた純粋な戸惑いはどうなるだろうか。
また支配欲に侵され、ミチルを喰い殺すだろうか。
ここで見つめあい、今度こそ彼の意識に自分が映りこんだ。
見ていたのがバレてしまった、興味があることを気が付かれたくなかったなんていう、子供みたいな想いだ。
見ているだけでよかった。
傷つけたくなかった。
本当はずっと会いたかった。
しかし他では、彼を気に入った強欲な意識が、彼を手篭めにして何がなんでも自分だけの所有物にしようと望んでいる。
貪欲な獣に芽生えたのは、似つかわしくない純情だった。
先日新たに迎えた主人は、一言で言うなればとても繊細な方だ。
得体がしれないから、こっちのことは完全拒絶。世話も好意も受け付けず、おっかなびっくり警戒して話しかけるも尽く無視、しかし耳だけがピンと立ち上がっている。
成程、放っておけないほど愛らしい。
懐いて欲しいが、近づけば近づくほど、彼がこちらを見る目は厳しくなってゆく。
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