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一章
169.アホそうな顔
しおりを挟む一瞬、風が止んだ気がした。
伸ばした手は阻まれた。
「·····またお前か·····」
それはこっちのセリフだ。
掴まれた手首はすぐに離され、相手は面倒そうに起きあがる。
「なんで何回もここに来るんだ?」
赤い瞳がじっとこちらを見つめる。
なんだか悪いことをして怒られる子供の気分だが、そんなことこっちも知らないんだってば。
というか、これは自分の夢だ。勝手に出てきてるのは彼の方では無いのだろうか。
「アホそうな顔して····なに企んでるんだ?」
それは聞き捨てならない。
できるだけ凛々しい顔で相手を睨みつける。「獣人は1番嫌いなんだ」と、つんとした声が前触れもなく言った。
大人しくしていれば、好き勝手言う男だ。
なんだか古臭くて偉そうな態度も鼻につく。
「なんで?」
「恩知らずで浅ましいからだよ」
こんな時だけ安易に返答がきた。
「なんで」
悪魔に獣人の知り合いがいるものか。
負けじと聞き返すと、青年はくいと片眉をあげる。なぜ説明が必要なのか。そう言いたげだ。
「屍なら、何より好物だ」
そう言い放つ彼を恐ろしく思わないのは、血の気を感じないせいだろう。
ミチルは諦めて寝転がる。
つぎは相手の方から話しかけてきた。
「俺はこれっぽっちも、お前を望んでなどいないぞ」
また、お呼びでないとかいう文句だろうか。
なんの話しかさっぱりだ。
ミチルは半身を起こしてこっちを見下ろしている黒髪に、べ、と舌を出してみせた。
「は?」
相手は狐につままれたような顔だ。
罵倒し見下していた相手にからかわれたら、いじめっ子はこんな顔をするんだ。
ちょっといい気味だった。
「この俺を冒涜するのか?」
暴君みたいな口ぶりに慌てて舌を引っこめる。
気難しそうな顔をして、意外と怒りっぽいらしい。
「無礼な·····だから獣人は嫌なんだ」
冒涜、無礼。
王様にでもなったつもりだろうか。
「嫌い」
鋭い瞳ははたと立ち止まった。
「偉そうで無礼だから」
沈黙に言い返してやる。
どうせ夢だし、恐れることは無い。
実際、殺伐とした空気がだいぶ恐ろしかったが、知らないフリをして空を見上げていた。
「今、獣人のお前が、俺を評価したのか?」
言葉と裏腹に、声音には怒気を感じない。
ミチルはチラと声の主をのぞいた。
「この俺を?」
真っ赤な瞳は限界まで見開かれている。
この俺、だなんて、なんと偉そうな身分だろう。勝手に夢に出てきて横暴をふるっているくせに。
誰だろうが、知ったことでは無い。
「そんなのどうでもいいもん」
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