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156.忍侵
しおりを挟む体制がおぼつかなくて咄嗟に肩口に掴まったら、腕は忙しなく身体を撫でながら、首筋には顔が埋められる。
「····ん、ぅ·····ッ」
静かに濡れたリップ音が吸い付く。
相手は無言で、何度もキスを繰り返した。
さっきまで優しく声を掛け続けてくれた唇なのに。
(勘違いってなに·····?)
「借りてきた猫ちゃんみたいだね」
「ミィ」
甘やかすようなささやき声に首を振ると、不意に顔をのぞき込まれた。
ルビーみたいな瞳だ。じんわり温かくなった股下に気がついた時、相手は妖麗な笑みを覗かせた。
「鼓動が早い」
言いながら、裸の胸元に彼の横顔が押し付けられる。
ドクドク鳴る心臓の音だ。飛び出してしまいそうと呟く声は少し笑っていた。
潤った熱を指摘されることは無かった。
乱されたシャツの間から、少し冷えた風が通り過ぎる。
それが、人前でこんな姿を晒すものでは無いと咎めているふうにも感じられる。
プロポーズを受け、愛してると告げられて、いまは優しく身体を慰められている。
女性が夢見る、男女の美しい物語みたいだ。
傷口に甘い麻酔を打たれたら、こんな気分だろうか。
「·····!」
少し緩いズボンと下着をずらされると、収まっていたしっぽが外に飛び出した。
蒸れた匂いに頬が熱くなる。
伸びた手は、初めはしっぽを撫で、やがて尻を揉むような手つきをし始めた。
「ニャ·····ッ·····♡」
ミチルは思わず吐息を漏らした。
大人びて紳士的なあの手が、どうやったらこんなにいやらしいことをするのだろう。
「柔らかくて、気持ちいい」
ふっと囁かれた台詞に、恥ずかしくていてもたってもいられない。
「だめ·····」
「駄目·····?」
「もむの、や·····ッ♡」
力なく首を振りながらも、脚には力が入らない。
もう少しだけと甘い声が囁く。優しい触れ方なのに、やめてくれない気配だ。
もう少しという言葉を信じていたら、いつの間にかハーフパンツを脱がされていた。
シャツは胸元までズリ下がって、もはや服としての機能を果たしていない。
直接恥部を刺激された訳でもないのに───気がつけば、いやらしい気持ちで彼の温もりを甘受していた。
「ぁ·····ン·····」
脇腹を直に撫でた両手が、少しずつ上へ伸びてくる。
指先が乳輪をかすめる。思わず息を飲み込むが、ひとりでにとび出た乳頭に触れられることは無かった。
「んぅ·····♡」
(なんで?)
切なさに眉を下げる。
チラと見上げた先で、ルシフェルはこちらを見つめていた。
冷や汗が出そうなほど綺麗な顔立ちだ。逃げようとしたら抱きしめられてしまった。
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