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一章
155.捨てられた
しおりを挟むそれが無くなれば、皇子達と自分は無関係な存在になる。
(でも·····)
もう、捨てられたも同然だ。
今更迷うことでもない。そう、自分に言い聞かせるのに、首を縦に振ることは出来ず俯いていた。
「勿論、すぐにでなくていいんだ」
「!」
腰を支えていた手が少し動く。
シャツ越しに彼の感触がくすぐったい。
戸惑うミチルの背を、大きな温もりが優しく撫でた。
「·····今は立て続けに大変なことが起こって、疲れているでしょう」
ルシフェルによると、自分を天界に招き入れた今、サタンの魂は穏やかになっているという。
しばらくは心配ないだろう。囁きかけるような言葉を聞いていたら、触れ合った膝裏に摩擦が起こった。
「ぁ」
ミチルを上に乗せたまま、長い脚が組み替えられる。
触れたところが変な感じだ。
「返事はすぐにでなくていいから、聞いて欲しいんだ」
ミチルはびくりとしてルシフェルを見つめ返した。
長い指はほんの少し二の腕にくい込んだ。匂いや触れ方、あでやかな眼差し、そして、甘い蜜が仕込まれた声がいけないのだ。
「俺と結婚して欲しい」
おかしな話だ。
旦那が複数人いたのに、プロポーズされたのは初めてだなんて。
「君を悲しませないと誓うよ·····」
大切に思っていた人達に見放され、いよいよ居場所も、帰るところもない。
身寄りのないミチルにとって、ルシフェルの言葉はとても心強く強固な魔法だった。
「俺だけのものに·····───」
美しい唇はふと言葉をとめた。
ミチルは項垂れたまま話せなくなった。
飛び出した耳は並行に垂れ下がっている。なんでこんなに我慢のできない獣化なのだろう。
不安定な情緒に酸素を取り込むも、乱れが落ち着かない。
自己嫌悪に苛まれていたら、そっと頭を撫でられた。
「初めて会った時も·····こうやって、俺に大切なお耳を見せてくれたね」
「·····ニャ·····ッ」
手のひらが覆うように耳全体をさする。
触れるよりも強い撫で方だ。背筋をゾクゾクした気配が駆けて、しっぽに電気が溜まるみたいな感覚を得る。
「·····ねえミチル、勘違いしてしまいそうになるよ」
「·········?」
そっと見上げた先に、高い鼻筋があった。
驚くまもなく額に鼻を擦り寄せられる。瞼の上には優しくキスを落とされ、しかし、今回はそれだけに留まらなかった。
「ル、シ」
やがて背を撫でていた腕がシャツを引き上げていた。
ズボンから裾が抜けてしまうが、手は服の上でのみ体をまさぐる。
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