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一章
150.手放せる
しおりを挟む「じゃあもうお触り禁止?最後くらい派手に遊んでやるのは?」
「·····ミチルは献上品として丁重に扱う」
胸を刺したのは、今まで味わったことの無い感情だった。
書斎にはまだ甘ったるい匂いが残っている。
向けていたのは無関心と僅かな侮蔑。
卑しくて忌々しい存在。
もう、不可解な感情に惑わされずに済む。ミチルもこれ以上自分たちに翻弄されず、ルシフェルのいる天界で不自由なく暮らすことが出来る。
───彼を壊さずに手放すことが出来る。
だから、これを「恐れ」と云うことを、ダリアは知らない。
「話が済んだならいいよね」と後頭部で腕を組んだハインツェが、扉の方へ向かう。
「···········んで、いつまでやんの、この茶番?」
不自然なセリフと共に、長い脚はピタリと立ち止まった。
「······なんだと?」
「ああ、残念だなぁ。まじで勿体ねーけど·····まあ·····仕方ないね」
ハインツェはさっきと同じようなことを言う。
ダリアの予想と同時に、相手は赤い舌先で下唇を舐め上げた。
「他の奴にやるくらいなら、あいつ俺が喰い殺しちゃおっと」
「な··········」
いっそ清々しく言い残して、ライラックの髪は扉の向こうへ消えた。
「───お前にとってはどうか知らねえが」
どうやら謀反者は一人で済まぬようだ。
うんざりしたダリアの表情に、黄金は不敵な笑みをのぞかせる。
「あいつを手放すのは、俺にとって"最悪"だ」
肩口だけで皮肉を言って、彼も振り返らずに部屋を出ていく。
残った一人はもはや言葉もなく部屋を去ってゆくでは無いか。
どうしようもない奴等だ。
(どうしようもないな)
頭の中で反芻しながら、自身の脚は、自ずとミチルを閉じ込めた部屋へ向かった。
特殊な暗号を仕掛けたから、あの部屋に入ることが出来るのは自分だけだ。ほかの三人は扉を見つける事すら不可能だろう。
なぜそんなことをしたのか?
もしかしたら───引き渡すことを決意した時、既にミチルを完全に自分のものにしようと企んでいたのではないか?
「·····はっ」
思わず笑みが込上げる。
愉快。こんな気分は初めてだった。
プライドや権力を投げ打ったのなら、それはもうダリア・サタンではない。
ただの愚かな悪魔だ。
だからなんのしがらみも気にせず、ミチルに会いに行けばいい。
彼が拒絶するのならプライドもなく縋り着いて、柔らかな温もりを堪能出来るならば、どんな罪も犯せる気がした。
彼を捕まえて、あとはどこまでも堕ちてゆくだけだ。
「··········─────」
開け放たれていた扉の向こう。
カーテンが揺らめき、ぼやけた光が舞う。
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