164 / 793
一章
141.赤い海
しおりを挟む──────────────────
──────────
天界へ最も近い古城、ラーガの最上階。
悪魔界を揺るがす不可思議な災害の数々について、議会に出席した大臣たちは皆神妙な面持ちをしていた。
「恐れながら、方法は一つだけです」
老いぼれた神官が告げる。
「大量の貢品は意味を成しません。特別で高貴な血肉でなければ·····」
この世の恐慌はサタンの強欲だ。
サタンの怒気は地を割り、欲望は1つの惑星を木っ端微塵に滅ぼす。
人間界の3分の2を血の海に沈めた時、彼は云った。
赤い海を見てみたかったと。
サタンが世界の支配者である所以は絶対的な力にある。
もうひとつの所以は、彼が魔力の源であること。魔力の流れが止まれば、悪魔達は生きることすら許されない。
だからアビス・サタンは神であり、絶対的支配者なのだ。
「"特別で高貴"か」
ダリアは長老の言葉を反芻した。
今、ここにいる誰もが小さく弱い獣人を頭にうかべているのだろう。
あれを献上するには、いくつか害壁がありすぎる。
実際のところミチルは利用価値が豊富だ。
渡すならば、わざわざ嫁いできた生贄でなく、16程の獣人皇族の雄を餌にやればいい。いくらでもいるだろう。
寧ろ殆どが欠陥品では無いだろうから、高貴且つ優秀な人材を集めれば文句は無いはずだ。
ミチルをやる必要は無い。
「皇太子と妊婦を除き、人間界の齢16以下の皇族を全て集めろ」
「す、全てですか?」
半獣人、半魚人、人間。更に獣人や魚人には数十もの種類があり、皇族には一族につき少なくとも10から20人の兄弟姉妹がいる。
思わず聞き返した宰相は口を噤んだ。
冷ややかな紫に慄いたのだ。
「かしこまりました。それでは·····──」
「その必要は無いさ」
突如、天井から声が響いた。
展開へ通ずる扉──といっても、充分な魔力を持たぬ者にとっては終わりのない闇の向こうから、対象的に神々しい男が姿を現す。
「ルシフェル様!」
降り立ったのは第二皇子ルシフェルだ。
共にやってきた赤髪の騎士が黙礼する。逆風が収まると、その場はしんと静まり返った。
「調べていた件はどうなった?」
魔力の不吉な乱れ───すなわちサタンが憤怒する理由についてだ。
それさえ分かれば、最悪の事態を防ぐことが出来る。
「明確だよ」
大臣たちの外された聖堂、2人きりになると、相手は再び口火を切った。
ルシフェルの周りに空気中のマナが集まる。片手をあげると、彼とダリアの間には直径3メートルほどの黒点が渦巻いた。
「ここにミチルを映せるかい?」
ルシフェルが問いかける。
32
お気に入りに追加
2,268
あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)


【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる