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一章
133.桃色
しおりを挟むそういえばこの手で彼の高い鼻を叩いたり、頬を引っ掻いたことがあったっけ。
全て不可抗力だが、思い返してみるといちばん迷惑をかけている人物に違いない。
「健康的な色です」
爪の色で健康状態が分かるのだろうか。
痛くありませんかと聞いてきたジェロンに首を振る。
「ううん」
傾いた日が眠気を誘う。
ミチルはそっと欠伸をした。
そしたらふっと息を着くから、驚いてジェロンの顔をうかがう。
笑ったのかと思ったが、研いだせいで飛んだ粉を払っただけのようだ。
彼が笑う顔をあまり見た事がない。
皮肉っぽかったりほんの少し微笑をするくらいで、声を出して笑うところは知らない。
「爪も柔らかいのですね」
「·····"も"?」
一応、体の部位の中では結構硬い方に入るはずだ。
「やわらかくない」
「薄くて柔らかいです」
自分でも確認してみるが、もちろん弾力性や収縮性がある訳でもない。
ところで、「も」とはなんだ。
弱々しいと言われた気がする。悶々としていたら、相手は特に意味もなさそうに呟いた。
「ミチル様はどこも薄くて柔らかい桃色をしています」
言い終わるのと同時に爪とぎが机上に置かれる。
唖然とするミチルの薬指、次いで手のひらへ、熱い唇が触れるだけのキスを落とした。
脳内は真っ白で反応することも叶わない。
今度は足爪へと取り掛かるため跪いたジェロンを見下ろす。
彼はそれきり話さなくなる。
沈黙で息を殺すように、ミチルは両手でそっと口元を押さえた。
~ミチルが保護された頃の三人組~
ヨハネスの仲裁によって取っ組み合いの喧嘩を免れたが、ミチルが疾走したことに気がついた三人。手分けして探していたところ、ミチルが保護されたと連絡が入る。
再び集まるハインツェ、アヴェル、ヨハネスだが、皆釈然としない顔をしていた。
「───·····ったく·····小さいくせにうろちょろするからいけないんだよ、あのグズ」
「元はと言えばお前が割り込んでくるせいだろ」
「知るかよ。せっかくこの俺が着いてきてやったのに」
言い捨てるハインツェだが、語尾に勢いがない。
いくらかは悪いと思っているらしい。街へ出かけるのを楽しみにしていたミチルが原因だろう。
「2人が悪い」
ヨハネスの呟きにその場の空気が重たくなる。
反論するものはいない。
それぞれが初めて、渋々ながらも己の非を認めた今日。ミチルの知らないところで、ほんの僅かに皇子達の関係が改善されたのだった。
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