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一章
128.騎士
しおりを挟む「この辺りの路地で若い子を狙った麻薬売買が頻発しているんです。怪しい人物に声をかけられませんでしたか?」
そんなの知らない。悪魔はみんな恐ろしいし、その中で声をかけてきた人物と言えば今目の前にいるあなたくらいだ。
(さっきの人は、どこに行ったんだろう)
「ちょっと、君?」
返答を促されるが、言葉を発することは叶わない。
相手は訝しげに眉をひそめ、ふとこちらの胸元で視線を止めた。
「·····君、そのブローチは·····」
申し訳ない気持ちを抱えながらも、ミチルは彼の言葉を無視して踵を返した。
「ちょっと、待ちなさい!」
得意の逃げ足でぴょんぴょん走る。
さっきの男が気になって仕方がない。
漆黒の髪に深紅の瞳。一瞬覗いた輪郭が、同じ色の目を持った別の男を彷彿とさせた。
彼は誰だ?
進んだ路地の先は行き止まりだった。
「待ちなさいと言ってるだろう」
「!」
腕を捕まえられる。
さっきの茜髪の男だ。
振り払おうとしたが、相手はとても敵わない馬鹿力の持ち主。
ミチルはもがいた。
「·····!」
視界が揺れる。
背中が冷たい。目を見開いた時、さっきの柔らかな物腰からは意外な程精悍な顔つきの騎士がいた。
「·····こら、大人しくしなさい」
背は壁に押し付けられ、暴れないようにと両手首を頭上で押さえつけられている。
「見た目に似合わずヤンチャだな。女の子が力任せに暴れて·····」
危ないだろうと相手がため息を着く。
白い手袋のせいで体温が分からない。通常他人との距離感を図るとき、獣人は無意識に相手の温度を感じ取ろうとするのだ。
ドキドキと嫌な動機を飲み込んで、ミチルは抵抗を諦めた。
「どうして逃げたの?」
整った顔立ち、スラリとした身体つき、そして胸元に光る独特のバッジ。
街中の警備隊にしては随分立派な風貌の男だ。
「········」
ホワイトグレイの瞳に疑念の眼差しが浮かぶ。
「なにかマズイ理由があるのか」と言いたげだ。
話せないだけなのに。しゃっくりと鳴き声が漏れてしまいそうなのを耐えていると、再びため息が聞こえた。
「質問を変えよう」
声はさっきよりも低い。
嘘は見抜かれる。確固とした予感だった。
「そのブローチは、君の?」
「!」
これはアヴェルから「やる」と言われたものだ。
「平民じゃ中々身につけられない代物だ。それをどこで手に入れた?」
もしかしなくても、窃盗を疑われているのだろうか。
頷くことも、首を振ることも出来なくなる。
頭上で固定された手がしびれてきた。
ミチルはパクパクと口を動かし、蚊の鳴くような声で呟いた。
⬇茜髪の騎士のイメージイラストです。
紹介は後ほど!
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