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124.おねがい
しおりを挟むミチルはふとヨハネスを見つめ返した。
「抱きしめてもいい?」
湖を思わせるような、澄んで美しい顔だ。
彼はどんなことを思って今、自分を見つめているのだろう。
好きだと何度も告げて、いつでも優しく甘やかしてくれる。
何かとても酷いことをしたような罪悪感を覚えた。
「お願い·····」
真っ直ぐな眼差しを拒むことはできない。
迷いながら少し首を縦に振ったら、すぐ抱きすくめられた。
──────────────────
「好きなの」
いやいやをする幼児みたいに首を振って、ミチルは泣きそうにつぶやいた。
ずっと聞きたかった言葉だ。
それを他の男への想いとして聞かなければいけないなんて、知っていれば耳を塞いでいただろう。
ミチルがダリアを恋しむ姿は、ミチルを愛しいと思う気持ちを、時に狂気へ豹変させる。
理不尽な哀しみを殺し、今度こそ伝わるようにと彼を見つめる。
「俺はうさぎちゃんが好きだよ」
ミチルはなにかに気づいたような顔をしていた。
ピンクの瞳は少し濃い。
「抱きしめてもいい?」
今すぐ、どこかで行ってしまいそうなミチルを腕の中に閉じ込めたかった。
ミルクみたいな甘い匂い。
首元に回された手に噛み付いて、更に欲張りたくなってしまう。
「·····ひゃん·····ッ」
もう優しいだけではいられない。
ミチルを愛しているのだ。
首元へ噛みつき、赤くなった患部を舐めてやる。
驚いたように強ばった身体が、2回目には熱く震え出す。
「だ、だめ·····」
拒絶する言葉まで愛おしくて、かえってこちらを煽るだけだ。
「好き」
たちまち飛び出るしっぽは、撫でてやると小ぶりに振れる。言葉をかけてあげたら耳はピンと立って、恥ずかしそうに項垂れるのだ。
それがとても可愛い。
「ずっと、大好きだよ」
「·····ッ」
今日からは、毎日想いを告げて、こうして触れようと思う。
ミチルが自分のことを好きになってくれるように。
「·····ひゃん·····ッ」
思わず裏返った声を落とす。
首筋にちくりと痛みを感じた。
「·····へ·····?·····ぁ、」
痛みは近辺へ広がり、そして甘い後味を残してゆく。
「だ、だめ·····」
それよりも甘い声が、繰り返し好意を告げる。
せっかく着たスカートの中にも腕が忍び込まれる。
これ以上は拒絶しなければ。弾くようにして彼から離れ、出口へ逃げる。
ノブに触れると同時に扉が開き、目の前に人影が立ちはだかった。
「うお」
「へぷっ」
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