悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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123.変装

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ミチルは召使いたちに囲まれ、理由も聞けず着替えを進めるはめになった。
口も聞いた事のない使用人たち。みな揃って無表情だが、鏡をのぞきこむと少し目尻が優しくなる気がする。


「とてもすてきです」


ウィッグを被った頃、一人がつぶやく。
彼女の感嘆は隣にいた召使いに肩をこずかれしりすぼみに消えた。
男がスカートを履いているのにすてきなわけが無い。


「可愛い」


ヨハネスに抱きしめられながら不貞腐れる。
何だか股がスースーする。前のドレスの方がスカートが長かったせいだろうか。

考えていたら不意にノックの音がし、扉が開いた。


「!」


入ってきたのはダリアだ。

なぜ、よりによって今。
冷たいバイオレットはかたまったミチルを数秒眺めた後、口を開いた。


「·····───」

「これは、ちがくて」


彼が話すより先に、咄嗟に否定する。
何が違うのか?説明するほど冷静ではない。
彼にとってこれ以上恥ずかしい存在になりたくない。
それだけだった。


「ちがうの·····」


実際は、繰り返しそうつぶやくことしかできなかった。
かがみこんできたヨハネスから逃げるように後ろを向いてうつむく。
スカートを握りしめても耐え難い羞恥心だ。


「·····別に·····どんな格好をしようと構わない」


しっとりした低音は、拍子抜けしてしまうほど静かに言った。
予想もしなかった返答に一瞬頭が真っ白になる。

どう思われるか気にして混乱していたことを、彼はどうでもいいという。

ダリアにとって自分という存在は気にするまでもないものということだ。
「話があるから、戻ったら執務室へおいで」とつげ、彼はジェロンと共に部屋を出ていった。

さっきまでの感情が全て恥ずかしい。
そう思うことすら自分を惨めにさせるから、なんでもないふりをするしかなくなる。
人間界にいた頃と同じように、息を止めて、じっと耐えるのだ。


「ダリアとお話するとき、いつも悲しそうだね」


ミチルはハッと顔を上げた。
目の前に、膝を着いてこっちを見つめるヨハネスがいた。


「いつも悲しくなるくらい、いじわるされてるの?」


碧眼が白く見える。
奥から漲るシアンが燃えているようにも見える。


「ううん·····」


おもむろに首を振る。

優しくて知的な微笑みに惹かれた。
本当のダリアはとても冷たくて意地悪だと思う。
興味なさげな視線も、時に投げられる鋭い眼差しも、目が合えば凍りつくほど恐ろしい。


「でも、傷ついてる」


けれど、そんな一面も嫌いで好きだった。
本当の原因は彼に冷たく当られることじゃない。

ダリアは自分を愛してくれない。
それどころか関心すら無いに等しい。
それが虚しくて切ないのだ。


「やめられない?」


そう問いかける声は寂しかった。
頬を撫でた人差し指が温い。
答えは聞かれるまでもない。不躾な言葉が心のなかへ土足で踏み入るようで嫌な感じがした。


「好きなの」


駄々をこねる子供みたいだ。
もう考えるのをやめようとしたのに、気がついたらまた彼で頭がいっぱいになっている。
手に入らない物を欲しがってぐずる。
自分でも幼稚だってわかっている。


「俺はうさぎちゃんのことが好きだよ」







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