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114.一線
しおりを挟む背中に回った腕がくびれのあたりを引き寄せる。
引き止める前にまた口付けが再開する。
濡れた唇も擦れて気持ちいい。
普段隣に佇んでいるだけの彼がこちらを押し倒して静かに啄むのは、いたたまれないほどの背徳感だった。
「どのように致しますか?」
「ふ、へ·········?」
しばらく余韻に浸ってからはっとする。
何をどう致すって?全く意味がわからない。
もじもじしていたら、高い鼻が影を落として近づいてきた。
吹きかけられた吐息にまぶたを閉じる。部屋にはそれらしい音が響く。
「ぁ、んッ·····」
欲求不満だと思われたのなら説明がつく。
側に仕える男が慰めるのを手伝うのは夫人の間で有名だ。だから地位の高い女性ほど見た目の良い男を選ぶというのは人間界でもあったが、あくまでもそれは「女性」に限る。
(あ)
腹に広がった手のひら。
指の先が胸の突起を掠めると、妙に身体中がゾクゾクした。
昨日から目が覚めるまでヨハネスに弄られたせいだ。
「ぁ·····そこ、もっと·····」
唇どうしの隙間から呟く。
一度疼いたら触って貰えないとせつなくてたまらない。
「直に触れても?」
「ん、うん·····っ」
ジェロンの問いかけにはこくこくと頷く。
シャツの中に滑り込んだ指がそこを撫でると、思わず甘い吐息が漏れた。
頭のてっぺんまで柔らかい痺れに覆われるみたいだ。気持ちよくて、自分でも信じられない心地だった。
「はぁ·····♡ぁ··········ニャァ·····っ♡」
八重歯の辺りがムズムズする。
伸びてきた指を噛んでいたらため息が聞こえた。
「噛みグセが直りませんね」
「·······ッ♡」
冷静な声は、こっちを馬鹿にしているというよりは、最早呆れというのが近そうだ。
赤子みたいな癖が恥ずかしくて悔しくて、耳が熱くなる。
でも気持ちいい痒さでやめられない。
じんわり唾液が滲んだ。
柔らかいもも色は、撫でるほど色濃くなっていった。
男の割につるりとして、妙に噛みつきたくなる乳をしている。こういうのなら噛み癖がつくのも分かるが、当のミチルはこっちの指を噛むことに必死だ。
爪を立てたら弾けてしまいそうなほど膨らんだ乳首をつまんでみる。
挟んだ指を左右に前後したら、「ニャア」と甘えた鳴き声が伸びた。
血色のある薄皮が果実みたいだ。
嫌がらせを企んでいたのだろうが、今ではすっかり気持ちよさそうに薄目で善がっている。
快楽に弱いところも、怖がりのくせに反抗しようとしてくるところも、愚かでいじらしい。
口付けされた途端、危うく理性を失うところだった。
「ぁ····♡イッちゃ··········───ッ♡」
可愛いねだり方も、思い出すととても憎らしかった。
腹いせも兼ねて指先でピンとはじいてやる。ミチルは面白いほど跳ね上がり、少し達したらしかった。
「ぁ·····ぅ·····♡」
何か言いたげにこちらを見上げては俯く。
シャツからチラチラ覗く乳頭は、女のそれよりも鮮やかで可憐だ。
乳首だけでカラの膣を濡らし、自分だけの前でイッたのだ。
ジェロンはそっと生唾を飲み込んだ。
(イッちゃった)
背伸びした乳頭を見下ろしながら、ミチルは下唇をかんだ。
触れそうで触れない位置にある彼の指は、男らしく角張っていて潔癖だ。普段は手袋を外さないのにこんな時だけ外すから、余計悪いことをしている気分になる。
「他には?」
聞いてきたジェロンに口ごもる。
あんなに器用に指が動いてキスが上手いなんて知らなかった。
「にゃあッ♡」
突如乳頭をひと撫でされる。
びっくりした。
「指示が難しいなら」
「·····へ·····ッ♡·····ぁ、」
「不快に感じたら止めてください」
シャツの下は裸で、下着すら履いていない。ジェロンの手が尻を撫でると、鳥肌が乳頭まで伝わった。
「·····ぁん·····♡」
片方は指で揉まれながら、片方の乳は唇に吸い上げられる。
表しがたい快感に脳みそが痺れる。
すぐに無規則に動き出した舌先が突起を転がすので、声を我慢することは出来なかった。
不意に、蕾に圧を感じた。
「ぁ、♡ま、まって·····!」
挿入ってこようとした指を引き止める。
そっちはなんだかダメな気がするとか、よく分からない一線を感じたのだ。
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