悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

文字の大きさ
上 下
96 / 798
一章

82.想い

しおりを挟む








今はとにかく楽になりたかった。
寂しい隙間を埋めて欲しくて、彼を引き止めたのだ。

間違っているのでは?
とても恐ろしい過ちを犯しているのでは?

ダリアを裏切ることになる。
·····そもそも信頼関係さえないのに、"裏切り"とは成立するのだろうか?
彼を愛していることは自分の勝手だ。


「う」


ミチルはただすすり泣いた。
卑しい想いのはけ口は涙だった。綺麗なんかじゃない。
月光に靡くマントが床へ落ちる。

いつかと同じように、シャツの中へ閉じ込められる。
夜の空気が頬を撫でた。
望んでいた安らぎを手に入れられる気がした。


「やっぱり嘘みたいだ」

「·····うそ·····?」


寂しくてたまらなかったはずだ。
彼の腕の中はとても落ち着く。ぼんやり中を見つめていると、胸が締め付けられてしまいそうな囁きがうなじへ解いた。


「君の涙は綺麗だけれど·····───誰かのせいで泣く姿を見るのは、辛いよ」


(どうして?)

胸の奥にヒビが入るみたいな痛みに襲われた。
けれど嫌な痛みではない。


「知りたいんだ。君のこと、全て知りたい」


臆病で惨めな恋心も、寂しさも恐怖も、見透かされて理解されることを望んでいたのかもしれない。


「君を愛してる」













初めはただの好奇心だった。
権力争いや古臭いしきたり、他人の視線、万能の"ルシフェル"に目が眩んだ女たちの醜い争い。
全てが自分にとってはくだらなくてどうでも良い事だった。

あくびが出るほど退屈な日々を繰り返していた頃、欠損品の獣人が、自分を食らうはずの化け物に恋をした。
哀れだと思っていた。
───彼の想いに触れるまでは。

ところで、ダリア達とは異母兄弟だ。
若い頃のサタンは1人の女を愛し、彼らより先にこの自分が産まれた。

冷徹非道で合理的なサタン。
支配と権力に溺れ、その為ならば手段を選ばなかった先祖は、なぜ自分という過ちを残したのか?
不思議で仕方がなかった。

彼を不完全にした愛とは何か?

科学的にも合理的にも説明のつかない現象だ。

ダリアを愛するミチルを可哀想に思った。
利用され虐げられるのは当たり前の事。所詮家畜にも劣る非力な生贄が、期待を抱いては恐怖に挑み、小さな体を傷つけた。何度も涙を流したり、かと思えばダリアを想って熱を灯す。
とても不可解だ。気がつけば彼から目が離せなくなっていた。

これが愛なら、とても皮肉なものだ。
自分を犠牲にすることが愛なのか?ならばなぜ、それは存在するのか。

ある日、想い人に傷つけられて静かに涙を流すミチルが、そっと身体をかたむけてきた。

ミチルは自分をダリアと重ねた。
白い頬は赤く染って、唇は可哀想なほど震えていた。今にも壊れてしまいそうなのに、安堵したように鼻を擦り付けてきた瞬間を今も覚えている。

こんなに遊びがいのある玩具を放置するなど、つまらないダリアにはあまりに勿体ない。
初めて欲しいと思った。


「·····ピアニストなの?」


彼だけが、第二皇子でないルシフェルを知っている。
ミチルは名誉や肩書きさえない自分に名前をつけた。

日に日に嫌な気分が募った。
彼が他の誰かを思うのは気に食わない。その誰かを自分に重ねてあんな顔をするのは忌々しい。ならばいっそ、自分のものにしてしまおうと決めた。

───自分なら、決してミチルを傷付けたりはしない。
彼だってその方が幸せなはずだ。
犠牲を払うだけの愛など価値がないと今にわかるだろう。





「君を愛してる」





幼い瞳がめいっぱい見開かれて、困ったように視線を惑わせる。
ずり下がったランジェリーがとても情煽的だ。再び抱き寄せようかと思うが、意気地ない小動物からは警戒心が伺えた。
しかし、この匂いはごまかせない。


「君を傷つけないと誓うよ」


ダリアなんてやめて自分の元に来ればいい。
もう悲しい思いはしなくて済むだろう。
















しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...