悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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一章

68.秘密の通路

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権力や体裁に従うダリアが、それ以外に意識を奪われつつある。
しかし手に入れることができる時、果たして彼の思いどおりになるだろうか?


「心配しなくとも俺は誰かと違って、あんなに純粋な子を利用したりしないさ」


彼の求めるものは自分にとってどれも無価値だった。
天性の能力を持ってすればなんでも手に入れることが出来た。手放したのは、生まれ持ったハンデを理由に、面倒な責任から逃れるためだ。

あまりになんでも簡単に手に入るから、丁度退屈でたまらないところだったのだ。















───ルシフェル・ダンタリアン。

社交界の華。戦場の美しき死神。
アビスの英雄。

彼の事を、民はそう譬える。

彼の名の由縁は、王の名に相応しい風格を持つからだと、誰かが言った。
華やかなカリスマ性と風格。皮肉にも、彼には皇族としての血筋だけが欠けていた。

ルシフェルは"弟ではない。
ルシフェルがダリアより1つ年上だということは、偉大なアビス・サタンと大臣幹部のみが知る事実だ。

血統主義の悪魔界にとって、これは大きな問題だった。
だから生まれた順番をすり替え、頂には正当な跡継ぎを置いた。

然し理解していた。
彼との間には埋められぬ差がある。
この地位はいわば譲られたようなものだ。それこそが、ダリアを完璧主義者へ育て上げる礎となっていた。

高潔である為には何者にも理性を揺るがされてはならない。

絶対であるべきだ。
低俗な誘惑に惑わされるなどあってはならない。
だから、それを脅かすミチルを忌み嫌った。
苛み愚弄した。あれに興味を持ったり、絆されるなど有る訳がない。
上に立つ者はそうであるべきだ。

予想外なことが起こった。
ルシフェルが彼に興味を持ったのだ。

権力や地位にさえ興味を持たない彼が、なぜ無力でみすぼらしい獣人に目を付けたのか?

あれになんの価値があるというのか?

(馬鹿馬鹿しい·····)

そんなものは無い。
脅かされるしかない弱い生き物だ。


「この手で握り潰せば、すぐに肉の塊に出来るほど····」


紛れもない事実だ。

手のひらを見下ろして思い出すのは、暖かい温もりだけだった。
















1階まで駆け下りて、廊下を突き進んだ。

できる限り隠れやすい所へ行きたがるのが習性だ。
突き当たりを曲がって、分かれ道は暗い方へ。途中にあった細い道に入ったら、突然床が消えた。


「!?」



暗くてよく見えなかったが、下りの階段道だったのだ。
ネイビーブルーの絨毯のおかげで床に尻を打ち付けた痛みが軽減する。

薄暗い廊下があった。

秘密の通路か?

我ながら、臆病者のくせに好奇心だけは旺盛だ。
ミチルはおっかなびっくり暗闇を進んでいた。

段差の大きくなった階段で足を踏み外し、また、ころりころりと急な坂を落ちる。
最後は張り付くようにして地面に倒れ込んだ。

少し湿気の多い地下だ。

石畳の床と壁。
水滴の滴るほうを振り返る。
鉄鋼に取り付けられた蝋がひとりでに灯りをともした。

じっとしていると、段々膝や肘が鋭い痛みに襲われ始める。
脆く涙腺が緩んだ時だった。


「あれぇ」


間の抜けた男の声がした。


「上からチルチル降ってきた」


聞き覚えのある陽気な抑揚が、今はどこか力ない。
正面を向いたミチルの体が強ばった。

鉄格子が芸術品になったみたいな扉の向こうに、ライラック色の線が揺れた。

壁によりかかってしゃがみこんでいるのはハインツェだ。
長い足は前に放り出され、腕は面倒そうに髪をかき上げる。

──なんで、ここにハインツェが?

彼は謹慎中であるはずだ。


「ここ、俺らのオシオキ部屋。魔力が使えねえの」


こっちの考えを察した彼が口を開く。
ミチルは直ぐに、彼の異変に気がついた。


「·····どこか、悪いの?」


彼の額には冷や汗が浮かんでいた。
顔色も悪い。ただでさえ白い肌は青白くも見えた。

魔力が使えないと言っていた。
おかしな話だ。人間の体に血液が巡るのと同じように、悪魔は体内の魔力によって生存を保つ。
不老不死の彼らは、魔力供給が機能しなくなった場合、仮死状態となる。











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