悪魔皇子達のイケニエ(番外スピンオフは別紙へ移動)

亜依流.@.@

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一章

66.涙

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差し出された手を叩き払う。
泣き顔を見られるのが嫌だ。ある人はこれを見て蔑み、またある人は鬱陶しそうな顔をした。

次の瞬間、視界は白いものに阻まれた。

目元に当たったシャツが湿る。
抱きしめられたと気がつくには少しかかった。


「·····これで、誰も見ることは出来ないから」

「·····っ」


出会った頃からいままで、彼は驚くほど優しかった。
まるで大切な人を気遣うような温もりにほっとする。甘い声は少しくすぐったくて、頭がふわふわするのだ。


「我慢してはいけないよ」


必死に瞬きを繰り返していると、彼は全てを見透かすように言った。

シャツがもっと濡れてしまう。

顔を背ける。そっと頭を撫でられると、背筋がゾクゾクした。

(どうして?)

彼に絆される度耳やしっぽが出てしまう。
体から力が抜けて、全て委ねてしまいたくなる。

神に愛されたような容姿のせいではない。
まるで本能が、彼のフェロモンにあてられているみたいだ。

(好い香り·····)

知らないうちに鼻を擦り寄せていた。


「心を溢れた想いだと思うんだ」


涙を拭った彼が呟いた。


「誰かを·····あるいは時や、場所を想って慈しむことができる」


綺麗だと囁く声に、思わずうっとり瞬きする。
慰めてくれているのだろう。もしかしたら不憫な獣人に同情して、こんなふうに優しく接してくれているのかもしれない。
そう理解していても、彼の言葉に救われる自分がいた。

『溢れた想い』。
なんて綺麗な言葉だろう。


「だからこのお耳も」

「·····っ」


人差し指の腹が獣耳の付け根から先をなぞる。


「見せてくれたことが嬉しくて」


腰の辺りが沁みるように重たい。
覚えのある切なさだ。ミチルは下唇を噛んだ。


「·····ここ、撫でられるの気持ちいい?」

「だめ」


勢いよく頭を振る。直ぐに離れていった手にほっとしつつも、視線は斜め下に下がった。


「·····ピアニストなの?」


ミチルは問いかけた。
自分から他人に声をかけるのは恐ろしい事だった。

彼に興味が湧いた。
それに、誰かを傷つけるような人ではないと、漠然とわかったのだ。


「俺がピアニストに見える?」


彼は不思議そうな顔をしていた。
あどけない真顔は、うっかりめまいを起こしそうなほど秀麗だ。


「ピアニスト·····そう·····いいね、それ」

「へ?」


そうしようと言って見下ろしてきた赤に光が差し込む。
透ける奥に、底のない深紅が揺れていた。


「ピアニストのルシ。俺のことはルシと」


今閃いたような顔だ。
こんなにピアノを弾くのが上手くて、王宮にいるのだから、無難に有名なピアニストだと思っただけだ。


「ルシ·····」

「だってここには君と俺しかいないじゃないか」


"君が何者でも、俺には関係ないさ"

"ここには、君と俺しかいないからね"


「君が感じた俺が『俺』では·····駄目かな?」


欠陥品の獣人。
生贄として捨てられた、哀れな王子。

彼の前では、出来損ないでも、虐められ慣れた少年でもない。
やっと自由な自分を手に入れられるのだ。


「うん」


思わず笑ってしまう。
少し身体がほてって、目元が熱い。滲む喜びが体の先まで行き渡れば、獣耳は自然とパタパタ動いた。

ふと絡み合った赤い瞳は茫然としていた。


「·····───。」

「··········?」


鍵盤に影が沈む。
高い鼻は、近づくほど滑らかな陶器を思わせる。

まつ毛がまぶたを撫でた。


「キスしても?」


ルシのことをなんと紹介したらいいか考えたら、きっと答えは出ないだろう。
性的魅力に溢れた男。
一言で言うなら、美しいだけというには、あまりにも魅惑な悪魔だった。


  その手は全く危機感を抱かせなかった。















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