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64.いつも
しおりを挟む開閉しながら飲み込もうとする孔も虚しく、彼の手は掠めただけで離れていった。
「ぁ·····ぅ·····っ」
「見られることにすら快感を覚えるみたいだ」
「·····っ·····♡」
じんわり視界がぼやけた。
冷たい声も、視線も、指も、全てたまらない。
彼に触られたところから奥へ媚薬が伝ってゆく。
少しでも触ってもらうことしか考えられなくなるほど、頭の中はとろけていた。
「それじゃあ、よく見えないだろう」
目が合った彼は嫌な感じで、それでいて優雅な笑みを浮かべた。
「脚を開いて、見せてみなさい」
言われた通りにする他なかった。
ヒクヒクと引き攣る肉の奥から泉が湧き出るのを、彼は興味深そうに観察していた。
「もっと激しくしてごらん」
少し優しくなった声が残酷な言葉を放つ。
中指が一定の速さでベットの柱を弾く。
音に合わせて指を早めると、彼の温もりを感じられる気がした。
「·····ミゃぅ·····♡」
トン、トン、トン、と、木を叩く音が早くなってゆく。恥じていたはずの水音も忘れ、孔を撫で続ける。
数秒後、切ない絶頂を味わった。
朦朧とする意識の向こうで、ダリアが使用人を呼び出すベルへ手を伸ばす。
「まって」
ミチルは息絶え絶えに呟いた。
奥の疼きが酷くて我慢できない。離れてゆこうとする背広の端を握りしめた頃には、もう引き返すことが出来なかった。
「ダリア·····」
名前を呟くと臍の下がよじれる。
相手は驚いたように目を見開いた。新鮮な表情に目を奪われていると、望んだとおりこちらを振り返ってくれる。
「何だ?」
"大嫌いなんだ"
聞きたいことは怖くて聞けない。
これ以上、嫌われたくない。卑しいからだと、拒絶されるのも恐ろしくて、欲願を口にすることも出来なかった。
「前みたいに·····撫でて欲しくて·····」
「·····───」
その時の彼の表情をなんと表せば良いか分からない。
度肝を抜かれたと言うにはうんざりしたような、釈然としない顔。
広がってゆく沈黙が返答だった。
「なぜ未だに、そんな目で俺を見る?」
いつから、どんな目をしているっていうんだろう。
今すぐに鏡を確認したい。さっきの醜態もそっちのけで彼の目に映る自分がどんななのかを気にしているなんて、ことごとく呆れてしまう。
自分だって分からない。
彼に自分を見てほしい。
「好きだから·····」
沈黙に呟いた。
多分、彼が慈愛の籠った目でこちらを見つめた日。
必要だと、自分の存在を肯定してくれた瞬間、彼に希望を与えられた。
一度惹かれたら、のめり込むように何でもかんでも知りたくて、どんな一面も好きになった。
彼に喜んで欲しくて、認めてもらいたくて、ダリアのことばかりを考えては喜哀楽した。
想いとは残酷だ。
自ら止めることは出来ない。苦しくても望んでしまう。
ずっといえなかった一言をいえてしまえば、あとは簡単だった。
溢れた想いを伝えたくて両手をにぎりしめる。
夕風が妙に肌寒かった。
「いつも、考えて、」
部屋は時が止まったように静かだった。
「·····いつもだって?」
硬い声音にハッとする。
嫌いな奴にこんなことを言われたら気分を害するに決まっている。
しかしその後に告げられたのは、予想とは違っていた。
「他の男に抱かれている時は?」
「え?」
意図のわからない質問に首を傾げる。
数秒後、頬は火がついたみたいに熱く感じた。
真っ赤になって狼狽えるミチルは、それきりうんともすんとも言わなくなった。
質問の答えは明確だった。
甘い香りにサボンが混ざる。コレは、どんな感情なのだろうか。
冷遇されても尚、彼は足りなそうにこちらを見ていた。
(──いつもだって?)
この前、躾直してやろうと思ったのがバカバカしいほど愚かである。
それなのに、大人気なく彼を相手して、悲しむ姿を見て確かめる。
(·····何を?)
「·····さっきの話だが」
熱視線を流して口火を切る。
小さな草食動物相手に戸惑ったのは、紛れもない事実だった。
「不死に関しては自然死がないだけだ。俺たちと違い瞬間治癒能力もないから、変な真似はしないように」
ハインツェのしたことは掟に反する。
悪魔皇族の血を飲んで不死の身体を手に入れるには、アビスの土地への赦しと儀式が必要だ。
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