悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

文字の大きさ
上 下
66 / 798
一章

60.怠惰な生活

しおりを挟む






「もういいだろ」

「!」


頑丈な腕に身体を押されれば、ベットに倒れこむのは必然的だ。
「寝ろ」とだけ命令して彼が目を瞑る。
輪郭を駆ける陽が妙に艶っぽかった。


(朝なのに)


こんなに怠惰な生活を送って、バチが当たらないだろうか。


(眠たい·····)


気がつけば白い夢の中にいた。
意識があるような、ないような睡眠だった。
ふと体に感覚を取り戻した時、薄いまぶたの向こうには、弱い日差しが確認できた。

正午は過ぎただろう。
全身が暖かい。
お腹に回された硬い腕を摩って、アヴェルだったと思い出す。
ずっとこの部屋にいてくれたらしい。


「ん·····」


滑らかなシーツに顔を擦り付けて、うたた寝に戻ろうとし───正面から視線を感じた。
目を開けた先で、パチリと目が合う。初めて目が覚めるような泉の色を凝視して、身体中からは冷や汗が吹き出した。
ベットの前に腰掛けた相手は、懲りずにこちらを見つめている。

なぜ彼がここにいるんだ?
微笑みかけられれば、あまりの美形にアホズラをこく。
ハッとして、こぼれていた唾液を布に擦り付けた。


「うさぎちゃん」


彼は未確認生命体だ。

赤子を世話するみたいにしてると思ったら、酷くしたいと言ってきたり、優しい声で意地悪をする。この前は───。


"愛してる·····"


声も吐息も思い出して、顔が熱くなる。
そんな彼が、穴があきそうなくらいこちらを見てくるのだ。

耳まで熱い。
いや、アレは、深い意味なんてないんだ。可愛いを多用するんだから、あの単語にこだわって振り回されたくなんかない。
白い手が頭上に伸びてくる。優しい重みが加わった。


「よしよし」


擬音語のとおり頭を撫でられる。
片手は彼に握られ、手首の内側、手の甲へとキスを落とされる。


「ミィ」


ミチルは今度こそまぶたを閉じた。


「起きてくれないの」


何か言いたげな声は無視する。

純粋無垢な好青年の次は、可哀想な末っ子でも演じるのだろうか。早く離れてくれないと、今度こそ怒ってやろうと思う。舐められないように精一杯の眼力で睨みつけて、やはり美貌に返り討ちにあう。


「うさぎちゃん·····」


薄い唇がふと半開きになった。
何故かドギマギしてしまう。
本当は、あの時の言葉の意味が気になって仕方ないのだ。


「こっち、おいで」

「·····」


ミチルは何度か瞬きを繰り返した。
碧眼は午後の陽射しを吸い込んで輝いている。期待のこもった眼差しから、自身の腹部へ視線を落とす。
がっしり抱きしめられている。
少し体を動かしてみるが、やはりビクともしない。

こういうことだから諦めてくれ。
今度甘いお菓子と蜂蜜ミルクを用意して、本を読んでくれるなら遊んでやらないこともないから、なんて不貞腐れた脳内で呟いていた時だった。

ヨハネスがこちらへ身を乗り出す。

彼の手は白くて細い。けれど男らしく角張ってしなやかだ。それがベットに皺を作るのは、何故かこちらを妖しい気分にさせた。


「·····っ」


盗み見ていた唇が鼻先をくすぐり、上唇に触れた。
額、まぶた、頬へ、順に口付けが落ちる。


「好きだよ」


聞きなれない単語が耳に溶ける。


「俺のこと、好きになってくれない?」


この前からどういうつもりなんだ?
ヨハネスの目的はなんだ?

怯えている理由は、彼が怖いからじゃない。
この言葉に懐柔されそうで怖いのだ。
迂闊に他人に好意を抱いて、傷つくのはとても辛い。


「嫌?」


彼はいつもそう聞く。
一瞬の迷いを隠すように、ミチルはブンブンと首を横に振った。


「··········」


相手が息を飲む気配がした。

この返答で間違いはないはずだ。
相手の表情を見ると、どうしようもなく悲しくなるのは、なぜだろう?


「どうしたら·····」


彼は模索するように言った。


「·····どうすれば、俺のこと」

「───おいおい、みっともねえな」


背後から抱きしめられていた力が強くなる。
目を覚ましたにしてはハッキリした低音が鼓膜を揺らした。


「振られたなら潔く引くべきだろ?」

「ひゃん」


鋭い犬歯が耳元に噛み付く。
慌てて塞ごうとした口内に、ゴツゴツした指が入り込んできた。

彼の指は舌を翻弄しながら奥へ侵入してゆく。えずきかけると上側を撫でられた。
腰を甘い電撃が駆けていった。


「ん、」


(息、上手くできない)


「こいつは俺といたいって。そうだろ?」







しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...