悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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57.化け物

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「チルチルの弱い身体·····」

「·····いや·····っ!」

「こんなガラクタで、傷つけないからさ·····」


「も·····や·····」


唇が触れ合うと、口内に鉄の味が広がった。
少ししょっぱくて甘い。
じんわりと涙が滲んだ時だった。

荒々しい音が響き、ミチルは驚いてハインツェから顔を逸らした。
締め切られていた扉が開け放たれたのだ。

暗闇から見えたのは尖った黄金。さっきも見た色だ。
目が合ったそれは、カッと見開かれた。


「·····お前!」


突進する勢いで近づいてきたアヴェルがハインツェを殴る。


「飲んだのか?!」


強い腕が両肩を掴む。
血走った目が怖い。怒鳴り声から逃げるように目を瞑ると、肩を掴んでいた手が離れていった。
アヴェルの体が吹き飛んだ。

大きな体躯は壁にぶち当たり、煤と一緒に床へ崩れ落ちる。
彼を突き飛ばしたハインツェの片手が、変だ。
それは鉛のように鈍く輝きながら、鋭い爪を伸ばしてゆく。

まさに化け物の手だ。


「人のモンに、勝手に触んじゃねえよ····」

「·····人のモンだって?」


───一体、何が起こっているんだ?
2人を止めようとしたミチルはしかし、ベットに倒れ込んだ。
酒がまわったせいで視界がグラグラ揺れる。立ち上がろうとして力むと、尻から虐辱された証が溢れ出した。


「そいつがいつ、お前だけのになったんだよ?」


立ち上がったアヴェルの瞳は、暗闇の中で爛々と光っていた。

満月が彼を照らす。
顕になった牙が、妖しく鋭さを増してゆく。


(2人とも·····何か、へん)

剣呑な雰囲気だ。
止めなければ大変なことになる気がした。
彼らに手を伸ばした時───部屋中に強い風が吹いた。


「!」


シーツにしがみついて身体を丸める。
歪んだ扉から、新たな人物が姿を現した。


「ダリア·····」


立っていたのは、日の出前にもかかわらず、服を着崩した様子もないダリア。
昨日は夜通しこの身体を貪った男だ。

2日連続で眠りについていないのだろうか。

今はどうでもいいはずのことが頭に浮かんだ。







「何事だ?」


ダリアの登場で部屋はしんと静まり返った。
紫瞳がこちらを一瞥する。無意識に体が強ばるが、それは直ぐに外された。


「ジェロン」


指示を受け、ダリアの背後で待機していたジェロンがこちらへ近づいてくる。


「おい!そいつは───!」


ハインツェの怒鳴り声は続かなかった。
彼の膝が、落ちるようにして床につく。ダリアの手元で赤紫の指輪が輝いていた。


『悪魔の瞳』


サタンの第一子が持つ権限。
彼の前には誰もが跪く。皇族でさえも脅かすことは出来ない、絶対権力だった。


「こちらへ」


手を差し伸べてきたジェロンの腹脇から、そっとハインツェ達の方を伺った。

口内が切れたのか、唾と一緒に血を吐き出すアヴェルと、地面を見つめたままのハインツェ。冷酷非道な悪魔であるはずなのに、色褪せたピンク髪の下が今どんな表情をしているのか気がかりだった。


「ぁ!」


視界が浮き上がった。
重力がいつもより気怠い。骨が抜き取られたような身体をジェロンに抱き抱えられ、部屋を後にした。

やってきたのは自室だった。
シャワールームへ直行したジェロンがミチルを浴槽に降ろす。
蛇口から生ぬるい湯が噴射した。

壁に寄りかかっていたが、力が入らず背から滑り落ちる。
槽内のベンチにぶつかりそうになった頭は、大きな手に支えられた。

ジェロンはこちらを見下ろした後、小さく溜息をつき、自身のタイを外した。
ベストとシャツを脱ぎながら、巨体が浴槽内に片足を突っ込む。体を軽く持ち上げられ、彼の胸元に寄りかかる形で座らされた。

背中にゴツゴツしたからだがくっつく。
あまりにも屈強な体つきに、軽く恐怖を覚えた。


「や」


覗き込んできた顔を反射的にぶつと、べチン、と、いい音がした。


「·····私にお委せください」


高い鼻を攻撃してしまったらしい。
軽く顔を覆った片手は、直ぐにこちらの膝に伸びてきた。

躊躇なく股を開かされる。
閉じようとするがビクともしない。
萎れた陰茎は手持ち無沙汰に擦られ続けたせいで、ひりつくような痛みがあった。


「じっとして」


普段は冷たい敬語を使うくせに、この声はたまに、幼い子供へ言い聞かせるように少し甘い響きを持つのだ。


「そのまま、自分で脚を押さえていてください」


ミチルは言われるまま両手で腿を押さえた。
彼の指は意外にも優しく孔を貫いた。













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