63 / 724
57.化け物
しおりを挟む「チルチルの弱い身体·····」
「·····いや·····っ!」
「こんなガラクタで、傷つけないからさ·····」
「も·····や·····」
唇が触れ合うと、口内に鉄の味が広がった。
少ししょっぱくて甘い。
じんわりと涙が滲んだ時だった。
荒々しい音が響き、ミチルは驚いてハインツェから顔を逸らした。
締め切られていた扉が開け放たれたのだ。
暗闇から見えたのは尖った黄金。さっきも見た色だ。
目が合ったそれは、カッと見開かれた。
「·····お前!」
突進する勢いで近づいてきたアヴェルがハインツェを殴る。
「飲んだのか?!」
強い腕が両肩を掴む。
血走った目が怖い。怒鳴り声から逃げるように目を瞑ると、肩を掴んでいた手が離れていった。
アヴェルの体が吹き飛んだ。
大きな体躯は壁にぶち当たり、煤と一緒に床へ崩れ落ちる。
彼を突き飛ばしたハインツェの片手が、変だ。
それは鉛のように鈍く輝きながら、鋭い爪を伸ばしてゆく。
まさに化け物の手だ。
「人のモンに、勝手に触んじゃねえよ····」
「·····人のモンだって?」
───一体、何が起こっているんだ?
2人を止めようとしたミチルはしかし、ベットに倒れ込んだ。
酒がまわったせいで視界がグラグラ揺れる。立ち上がろうとして力むと、尻から虐辱された証が溢れ出した。
「そいつがいつ、お前だけのになったんだよ?」
立ち上がったアヴェルの瞳は、暗闇の中で爛々と光っていた。
満月が彼を照らす。
顕になった牙が、妖しく鋭さを増してゆく。
(2人とも·····何か、へん)
剣呑な雰囲気だ。
止めなければ大変なことになる気がした。
彼らに手を伸ばした時───部屋中に強い風が吹いた。
「!」
シーツにしがみついて身体を丸める。
歪んだ扉から、新たな人物が姿を現した。
「ダリア·····」
立っていたのは、日の出前にもかかわらず、服を着崩した様子もないダリア。
昨日は夜通しこの身体を貪った男だ。
2日連続で眠りについていないのだろうか。
今はどうでもいいはずのことが頭に浮かんだ。
「何事だ?」
ダリアの登場で部屋はしんと静まり返った。
紫瞳がこちらを一瞥する。無意識に体が強ばるが、それは直ぐに外された。
「ジェロン」
指示を受け、ダリアの背後で待機していたジェロンがこちらへ近づいてくる。
「おい!そいつは───!」
ハインツェの怒鳴り声は続かなかった。
彼の膝が、落ちるようにして床につく。ダリアの手元で赤紫の指輪が輝いていた。
『悪魔の瞳』
サタンの第一子が持つ権限。
彼の前には誰もが跪く。皇族でさえも脅かすことは出来ない、絶対権力だった。
「こちらへ」
手を差し伸べてきたジェロンの腹脇から、そっとハインツェ達の方を伺った。
口内が切れたのか、唾と一緒に血を吐き出すアヴェルと、地面を見つめたままのハインツェ。冷酷非道な悪魔であるはずなのに、色褪せたピンク髪の下が今どんな表情をしているのか気がかりだった。
「ぁ!」
視界が浮き上がった。
重力がいつもより気怠い。骨が抜き取られたような身体をジェロンに抱き抱えられ、部屋を後にした。
やってきたのは自室だった。
シャワールームへ直行したジェロンがミチルを浴槽に降ろす。
蛇口から生ぬるい湯が噴射した。
壁に寄りかかっていたが、力が入らず背から滑り落ちる。
槽内のベンチにぶつかりそうになった頭は、大きな手に支えられた。
ジェロンはこちらを見下ろした後、小さく溜息をつき、自身のタイを外した。
ベストとシャツを脱ぎながら、巨体が浴槽内に片足を突っ込む。体を軽く持ち上げられ、彼の胸元に寄りかかる形で座らされた。
背中にゴツゴツしたからだがくっつく。
あまりにも屈強な体つきに、軽く恐怖を覚えた。
「や」
覗き込んできた顔を反射的にぶつと、べチン、と、いい音がした。
「·····私にお委せください」
高い鼻を攻撃してしまったらしい。
軽く顔を覆った片手は、直ぐにこちらの膝に伸びてきた。
躊躇なく股を開かされる。
閉じようとするがビクともしない。
萎れた陰茎は手持ち無沙汰に擦られ続けたせいで、ひりつくような痛みがあった。
「じっとして」
普段は冷たい敬語を使うくせに、この声はたまに、幼い子供へ言い聞かせるように少し甘い響きを持つのだ。
「そのまま、自分で脚を押さえていてください」
ミチルは言われるまま両手で腿を押さえた。
彼の指は意外にも優しく孔を貫いた。
22
お気に入りに追加
2,183
あなたにおすすめの小説
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる