悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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一章

38.いじわる

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話題は彼で持ち切りだが、当の本人はつまらなさそうである。
ふと──その目が、何かを捉えて、立ち止まる。

一体何を見ているのか?

冷めた瞳に浮かんだ色を、ミチルはよく知っていた。







すぅすぅと順調な寝息を聞いて、もうすぐ2時間が経とうとしている。
数秒瞼を閉じて、また見つめてみる。
それにしてもよく寝ている。
この生き物は臆病なのか肝が据わっているのか謎だ。

鼻先をつまんでやると、ミチルは泣き腫らした目をシーツに擦り付け、むにゃむにゃと口を動かした。
また規則正しい寝息が聞こえる。

『もういじわるしないの?』

稚拙な言葉を思い出すと、何もかもあほらしく思えてしまう。


──なぜ今夜は、こんなに安らかなのか?


長らく浮かんでいる疑問は解決する兆しがない。
呆れるほど静かな夜だ。


「·····呑気な寝顔」


ハインツェは誰にともなく呟いた。













──────────────────








せっかく気持ちよく眠っていたのに、頬を叩いて邪魔された。
手繰り寄せた羽毛はひったくられる。
寒い。


「起きろ」

「ミァ」


なんと相手は、ついでで尻まで叩き上げてきた。
鈍い痛みだ。既にある打撲箇所を叩かれるような·········。

ミチルはハッと目を覚ました。


朝陽がベットを照らしている。
尻の頬は少し触れただけで火傷したみたいに痛い。昨日のことが鮮明に思い浮かび、慌てて羽毛を手繰り寄せる。
ハインツェはシャツに袖を通しながらこちらを見やった。


「チルチル行かねーの?」


彼の言い方からして、彼はこれからどこかに向かうらしい。
そしておそらく自分の予定も。

どこに行くんだろう?
教えて欲しくて見つめていると、広い背はまた遠ざかっていく。


「この部屋で待っててもいいよ。鍵掛けるけど」


それは監禁と変わらないのでは。

ハインツェが姿見を確認しながら髪型を整える。
前髪をかきあげると少し大人っぽく見えてドキッとする。この美貌だけ見れば、一瞬でもそんな思いを覚えたって仕方ないだろう。


「帰ってきたらまた抱いてやるから」


セクシーな口元が想像もできないゲス発言を吐露し、長い指は無理やり首輪を付けてくる。
そのおかげで、ミチルは仕方なく服を着替え始めたのだった。



   何とか避妊薬を飲んだあと、向かったのは1階の晩餐室。
広い室内に、立派な食事と長机を囲んで、四人の旦那が勢揃い。
時刻は正午だ。ブランチに近い食事の席で言い渡されたのは、思いもよらないものだった。


「体調はどうだ?」


一番遠くの席に座っていたダリアが問う。
ミチルは頷いた。
体調を崩している間、1度も逢いに来てくれなかった。忙しいんだから当たり前だと自分に言い聞かせながら、何度落ち込んだか数しれない。


「そうか」


返ってきたのはそれだけだった。
アヴェルは黙々と肉単独の食事をしているし、ヨハネスはこっちを眺めながら微笑んでいる。さっきまでちょっかいをかける気満々だったハインツェは、目が合うと興味をなくしたように逸らしていった。

なんだか変な家族だ。

(家族·····だよね?)

この四人はサタンの血を継ぐ兄弟なのだ。
それなのに、お互いへの関心が全くなさそうに見える。時に、他人以下だ。

時折感じる違和感の正体の、さらにそのしっぽみたいなもの。
彼らには精神的、あるいは空間的なテリトリーが存在していて、他人を決して寄せ付けない·····───そんな感じだ。


「1週間後城で執り行う舞踏会だが、ミチルに必ず参加してもらいたい」


付け合わせのサラダをかじっていたミチルは、ふと意識を連れ戻された。
この自分が、王宮の舞踏会に参加する?


「社交界に参加するのは最低限で構わないが、国母の披露は早い方がいい」


不安げな視線が伝わったのだろう。
ダリアが再び口火を切った。


「今の時期なら、お前にとっても負担が少ないはずだ」


長らく戦地に赴いていた社交界の華、第二皇子ルシフェル・ダンタリアンが終戦後初めて城へ戻ってくるとして、貴族たちの注目は彼に向けられているという。














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