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一章
22.ナゾナゾ
しおりを挟む真剣に聞いていて理解できなかったのだから仕方ないじゃないか。ナゾナゾみたいな話し方を辞めてくれたら万事解決だ。
「ヨハネス殿下からいただいものです」
ベットの横に、さっき拒絶したこづつみを置かれる。
紐を解いて、中をのぞき込む。
色とりどりの金平糖が入っていた。
「いらない」
「頂いた方がよろしいかと」
「·····?」
ジェロンが部屋を出ていってから、ミチルはしばらく寝付けずにいた。
少しして、また包みを開ける。
飛び出してきたのはヨハネスの瞳と同じ色のビーズだった。
頂いた方がよろしいかと。
低い声を真似て呟き、顔をしかめる。
贈り物の金平糖にどんな意味があるっていうんだろ。
いや、意味などないだろうし、あってもただの砂糖菓子だ。
ミチルはそれをつまんでひょいと口に放り込んだ。
甘いフレーバーが頬を溶かす。なかなか溶けないのが気に入った。
もうひとつを口の中に入れ、ベットの中に潜り込んだ。
────────────
一日は、悪魔界の時事報告から始まる。
ジェロンの話を聞き流しながら船を漕ぐ。流暢な発音が、今日も今日とてなんかよくわからないことを言っている。
「最後ですが、今日ルシフェル・ダンタリアン皇子殿下率いる白銀騎士団が魔物の渓谷から凱旋します」
昨日貰った金平糖を探す。
枕の隙間に小包が落ちていた。手を伸ばしたミチルより早く、頑丈な腕がそれを拾い上げた。
「いけません。昼以降にしてください」
「·····。」
昨日はあんなに済まして「食え」と言ったくせに。
「数日間の凱旋式を終えたあと、ダンタリアン殿下と正式に謁見予定です」
「·····謁見?」
誰と誰が?
ミチルはふとジェロンを見上げた。
「永年悪災を齎した魔物の討伐に成功したのです。とても素晴らしいことです。本日は悪魔界で歴史的な一日となるでしょう」
そういえば彼は、その英雄様を「皇子殿下」と言わなかったか?
皇子殿下って、サタンの家系以外にもいるのだろうか?
でなければ、嫌な予測は命中する。
ミチルは片手の平を見つめた。
ダリア、ハインツェ、アヴェル、そして昨日の大嫌いなヨハネス。
五人と言っていた。
あと一人足りない。
「ル·····なに?」
僕とは無関係な人物だよねと、ジェロンを見上げる。
彼の瞳に侮蔑が滲んだ。
「ルシフェル・ダンタリアン皇子殿下は悪魔界第二皇子、この国の英雄であり、ミチル様の"素晴らしい"旦那様です」
ダリアから呼び出しを受けたのは、翌午前の事だった。
二人きりの昼餐の席だ。
ミチルは少し緊張してナイフを動かした。マナー教育は習ったはずだが、時折音を響かせてしまう。
向かいに座った相手は咎めることもなく無音で食事を続けた。
ミチルの頭の中は、おおかた二つの不安で埋まっていた。
まず、例の新たな旦那様のことだ。
一応婚姻を結んでから1度も顔を合わせていない。
相手はとんだ冷血漢なのか?
それとも血の戦にしか興味が無いサイコ野郎なのだろうか。恐ろしい想像はとどまることを知らない。
もうひとつは、ダリアに呼び出された理由だった。
今夜彼の部屋に行くだけでドキドキするのに、ずっと無言のまま時間が過ぎた。
胃もたれしてしまいそうだ。
「他の3人とは」
食事も終盤に差し掛かった頃、ダリアが口を開いた。
「上手く出来ているようだ」
怒涛の2日間だった。
でも、彼が喜んでくれると思ったから、やってみる気になったんだ。
ミチルは微かに頷いた。
「ダ、ダリア」
この時間が終わってしまう前に言いたい。
相手が形の良い眉をクイと上げ、こっちを見つめる。
やっぱり少し冷たい感じのする瞳もかっこいい。
「きょ、今日、あの」
「·····ああ」
全て言い終わる前に相槌が聞こえてきた。
「前にも言った通り、俺は帰りが遅いから、先に寝ていたまえ」
ミチルが言おうとしていたのはまさにこの事だった。
帰ってくるのが遅くてもいい。だから起きて待っていてもいいかと聞きたかった。
「それにしても、ミチルが他の3人と打ち解けたようで本当に安心したよ」
言い出すより先にダリアは話を変えてしまう。
「最近問題事に追われていたが、心配がひとつ減ったよ。おかげで今日は」
彼はタイを締め直しながら、目が合うとにこりと微笑んだ。
「久しぶりに眠りにつけそうだ」
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