悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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11.魔法

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冷たい感じのする美形が僅かに首を傾げる。
上品な笑顔もかっこよかったが、真顔は表し難く魅力的だ。
ミチルはなぜかドギマギしてしまった。


「食べ物とか、好きな事、とか」


そしてはたと気づく。
悪魔族の好物なんて聞かなくとも知れたことだ。
身体中に冷や汗が浮かぶが、


「·····食べ物は特にない。好きな事····普段は専ら業務をしているかな」


ダリアからはあたりざわりない返事が来た。
「地球人だよ」なんて言われていたら膝から地面へ崩れ落ちていただろう。


「何か気になるのか?」

「!」


彼の好みを知って、仲良くなるために使えないかと考えていた。
けれど、今のじゃだめだ。


「急ぎでないなら今度にしてくれるかい?」


どうやら相当忙しいようだ。
けどこっちはもっと切羽詰まった状態である。


「助けて」


好きなことを聞くのは今度にして、ミチルは単刀直入に告げた。

昨日、あんなことをするなんて聞いていなかった。

もちろん愛情は感じられなくて良い。けれど、自分をいつ喰うか分からない相手と2人きりの部屋に閉じ込められて、身体を好きに貪られる恐怖など、何度も乗り越えられるわけが無い。
思い出すだけで恐ろしかった。


「あんなこと、もう出来ない」

「他に何が出来る?」


承諾も拒否もなく、質問をされる。
検討してくれる気になったのだろうか。


「掃除も洗濯も、皿洗いも荷物運びでもなんでも」


ミチルは思いつく限りの案を述べた。


「それは結構な事だ」


彼が扉を指した。
話が通じると思ったのに、まるで鉄の壁みたいな男である。


「でも·····」

「ミチル」


ダリアが名前を呼ぶ。
低い声に呼ばれると、なんだかいい響きに感じる名前だ。
こっちにおいでと手招きされる。


「これは悪魔界で生きる為に必要なことだ。ミチルが悪魔の子を産めば、人間界と悪魔界の端掛けにもなる。お前無しではできないことだろう?」


机を通り過ぎて彼の前に行くと、大きな手に両手を覆われた。


「ミチルが必要なんだよ」


彼は秘密事を打ち明けるみたいに言った。

鋭利な瞳が格好いい。色気のある唇から紡がれる言葉は真摯で、決して暴力的ではない。
自分の周りには一人もいなかったタイプだ。

必要だと言われたのは初めてだった。
胸の中に、何かがストンと落ちてきた。


「·····ダリアも?」

「·····ん?」

「ダリアも、助かる?」


ミチルは興味津々で聞いた。
残酷な提案をしたのは彼だ。
しかし不思議な気分だった。

もしも彼がこの質問を肯定したら。


「·····」


数秒の間があった。
冷静なバイオレットが、一瞬考えるようにそらされた気がした。


「もちろん、俺も嬉しいよ」


ダリアは出会った頃と同じく微笑んだ。
窓から差し込んだ陽が2人の横顔を照らす。静かな書斎には時計の針の音と、小さく駆け足な鼓動が駆けていた。

嬉しいよと、語尾に甘みのある声がミチルの鼓膜を反芻する。

たったそれだけが、ミチルを突き動かすには充分な魔法だった。


「もう少し、頑張ってみる·····」


ミチルは小さく答えた。


「本当か?」


聞き返してきた声は喜んでいるようにも聞こえた。
見下ろした先で、角張った手がこっちの手の甲を撫でる。

恐怖じゃない。
なんだかムズムズして、耳が出てしまう前の感覚に陥った。
頷くと、相手の手が離れていった。


「期待してるよ」


後には寂しさと、やはり駆け足な鼓動だけが残った。


「·····明日も、来てもいい?」


部屋を出る前、ミチルはダリアに聞いた。


「明日は忙しいんだ。日中は時間を作りにくい。出来るだけ用がない時は控えてくれ」


彼の返答は悲しいものだった。
長く会えないと思うと気分が落ち込んだ。

いや、最初も忙しいって言っていたのに、結局時間を取ってくれたんだ。
欲張らずに、まずは役目を果たして、彼に喜んでもらいたい。

ミチルの中に初めて芽生えた想いだった。





















執務室の扉が閉まり、軽い足音が遠ざかってゆく。


「そろそろ出てきたらどうだ」


ダリアは誰にともなく呟いた。

部屋に入り込む西日に、ふと影が落ちる。


「邪魔するわけにいかないだろ」


それが、人の姿へ変形してゆく。
暗闇から姿を現したのは銀髪の若者だった。
服は重装備だ。施された金は、大柄な体躯が動く度鈍く輝いていた。


「予定より早い帰省だったな」


ダリアが問う。


「報告だけさ。またすぐ渓谷に向かう」


相手はため息混じりに答え、ソファに腰かけた。














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