悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

文字の大きさ
上 下
1 / 793
一章

1.一人きりの結婚式

しおりを挟む











森を抜けると、一面にグレーの建物が並んでいた。

帝都を観光した時に見たのよりずっと立派で冷たい街並みだ。振動していた馬車は滑らかな走り心地になって、時折心地よく揺れた。

コートに身を包んだ住人が足早に道を進んでゆく。
皆同じような背格好で、ただ直進している。

街から人気の少ない郊外へ、郊外を抜けるとまた森の中へ。
鬱蒼とした木々が、馬車の中を覗き込むみたいにして通り過ぎてゆく。


「到着致しました」


まもなくして馬車が止まった。

扉が開かれる。
背の高い従者だ。差し伸べられた手には黒い手袋がはめられ、指は恐ろしいほど長細い。
掴むのを躊躇っていたら、相手はさっさと背を向けて歩き出した。


「·····」


高原の中央に城がそびえ立っている。
御伽噺の魔女が住んでいそうだが、ここにいるのは、もっと恐ろしい化け物達だ。


「着いてきてください」


かろうじて使われている敬語に返事をし、ミチルは鋼の門をくぐった。




















現世には人間界と悪魔界、二つの世が存在する。

人間界──またの名を地球。
緑と水に恵まれたこの地には、大きく分けて半獣人、半魚人、人間の3つの種族が暮らしている。

悪魔界は大悪魔サタンの息子達が収める天界。
階級によって成り立ち、悪魔の血が濃いほど高位とされる。彼らは人間界の歴史が作られる遥か昔から存命していた。

かつて二つは、長い間対立関係にあった。
悪魔が地球人の血肉を好み、地球人は悪魔の不老不死を欲したためだ。
数千年にわたって続いた戦争は、悪魔による地球人の虐殺と変わりなかった。

長い戦いの末、人間界は降伏を宣言。
そして魔界族の条件を呑んだ。

"地球人は悪魔族に年貢を納めることとする。毎年農作物の3割を讓渡し、事件・事故・寿命・病により命尽きた身体を譲渡する。更に国民から継続的に血を採取し讓渡する。これを永久法とする。"

そして条約永劫を意味するため、百年に一度、人間界から花嫁(イケニエ)を送る───と。


床、壁、天井まで全て大理石で造られている。
大きな扉を五つ超えると、廊下の最奥にたどり着いた。

一際広い扉だ。前を歩いていた使者はそれを2度ノックして、初めてこっちを振り返った。


「お入りください」


遠くから聞こえていた音楽が開扉とともに溢れ出す。


「·····?」


「相手」がいない。


「殿下方は多忙により、略式で行います」


使者が横から告げた。

長い手が先を促す。この先は1人らしい。


「新婦の入場です」


ミチルは赤薔薇の散らされた道を進んだ。
観客は誰もいない。
踏みにじられると黒く染る花びらが、砂葛へ変わってゆく。

祭壇の上に針と指輪があった。


──ガサリ。


頭上から物音がした。


「ハズレかな~」


気のせいだと思いたかった。
が、違う。

彼らだ。


"お前が役に立つ唯一の機会を与えてやる。何があっても婚姻を成立させろ。"


伸びてくる影を見ないように俯く。
教えられたとおり薬指にリングをはめる。指先は酷く震えていて、針を刺すのに少し手間取った。


「俺は·····アタリ」

「はぁ??お前趣味悪──·····」


大皿に垂らされた血が広がってゆく。
ブンブンと傷口が脈打つ。


「·····なんだ、この匂いは·····?」


訝しげな声が言う。
感じるのは数人の気配だ。


婚姻は成立した。
あとは俯いたまま部屋を出て、そっと扉を閉めよう。
ミチルは素早く踵を返した。


「ばあ」


視界に、物体が入り込んできた。

美しいライムグリーンの瞳を持った生首だ。
それは鼻先がくっつきそうなほど近づいてきて、薄い唇にすいと弧を描く。


「こんにちはお嫁さん」


ミチルは今度こそ立ち止まり──後ろへ卒倒した。





















しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...