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〈re〉11.

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宙に振り上げた脚が蓮の肩口に命中する。
硬い板はビクともしない。しかし、手元からは力が抜けていった。

(死ぬほど·····なんて言った?)

遠ざかった意識に、彼の言葉は届かなかった。


「兄さん·····───」

「触るな!」


伸びてきた手を振り払う。
乾いた音、沈黙、そしてやけにうるさいく響く時計の針が、現実を突きつけてくる。

塩素みたいな臭いが鼻をかすめた瞬間、夏樹は転がるようにしてベットを飛び出した。

痛みに反抗して身体を動かす。部屋に落ちていた寝巻きを手繰り寄せ、一心に袖を透す。


「行かないで」


廊下の突き当たりから出て来た蓮はひどい表情をしていた。
美形が台無しだ。
けれどこの顔がこんなに綺麗でなければ、火を噴く拳で数発殴ったり、物を投げつけたりしただろうに。

夏樹は戸惑っていた。


「行かないで、兄さん·····」


扉が閉まる刹那。
隙間から見えた男の身体が、少年のように小さく見えた。


















ずり下がったズボンを持ち上げながら道路に出たら、全身を光に包まれた。

ステージのスポットライトでも当てられたのかと思ったが、そうではない。
黒のワゴンがクラクションを鳴らしながら急ブレーキする。車はよく分からない暴言だけを残し走り去っていった。

普段なら「どこ見て運転してんだ、この████野郎!」とでも叫んでいただろうが、如何せん状況が違う。
路地をぬけて街並みに出る。
夜は騒がしかった飲み屋街の明かりは褪せ、路上には1文無しのオッサンが寝転がっていた。

銭湯に向かった。
こっちには生きてるのか分からないような爺さんが、浴槽の端で目を瞑ってる。
おかげで人の目も気にせずケツの穴に指を突っ込む。溢れてきた精液は少しぬるい。
掻き出しては零れてくるそれを見ながら、夏樹はついに、一線を超えたと理解した。

彼と繋がった時、理性も建前も忘れ、心身で悦びを感じた。
彼に合わせる顔がなかった。

夢でも幻でもない。
だってもしそうなら、銭湯の主人にお代を請求されることは無いだろうし、もしされたとしてもポケットに手を突っ込めば金が出てくるはずだから。


「家族か知り合いは?」


店員はかったるそうにスマートフォンをよこしてきた。
代わりに代金を持ってこさせろということらしい。

ところで、電話番号とはふつう11桁の番号からなるものだ。
他人の11個の数字配列など覚えていられるだろうか?

夏樹は「絶対的信頼のおける自分専用の救護班」に連絡することにした。
覚えている電話番号なんて、それだけだ。


〈··········どちら様ですか〉






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